東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻教授 兼 災害科学国際研究所 気象・海洋・宙空災害研究分野教授 WPI-AIMEC所長 須賀利雄先生 (東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻教授 兼 災害科学国際研究所 気象・海洋・宙空災害研究分野教授 WPI-AIMEC所長 須賀利雄先生)

<10月6日>
*変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)の設立
今年1月に、東北大学とJAMSTEC(海洋研究開発機構)が共同で運営する変動海洋エコシステム高等研究所が設置されました。略称はWPI-AIMEC(エイメック)です。WPIは文部科学省の事業である世界トップレベル研究拠点プログラムのことで、東北大学とJAMSTECが共同でWPIに提案した構想が昨年10月に採択されたことを受けたものです。2007年に始まったWPIの18番目、複数機関共同運営の第一号としての採択でした。東北大学とJAMSTEC等から計約50名が兼務する形でスタートし、3年ほどかけて新たに約50名の専任研究者を雇用して、100名程度の規模にする計画です。専門性の違いなどから、物理的な側面と生物・生態学的な側面の研究は別々の分野として発展してきました。WPI-AIMECは、分野横断の融合研究により、地球温暖化をはじめとする環境変化に対する海洋生態系の応答・適応のメカニズムを解明し、将来予測の精度を向上させることを目指しています。さらに、これらの成果によって、人類の持続的な発展に貢献したいと考えています。

災害科学国際研究所 災害医療国際協力学分野教授 江川新一先生 (災害科学国際研究所 災害医療国際協力学分野教授 江川新一先生)

<9月1日>
*令和6年能登半島地震の災害医療対応
令和6年1月1日に発生した能登半島地震では、わが国の災害医療体制がいかんなく発揮され、多くの被災者の命を救うことができました。そのポイントは、間接的な死亡を減らすために、透析患者の移送や地域医療の維持と復旧に全力を注いだことにあります。また福祉施設にいる高齢者の尊厳を守ることの重要性をお話します。

<9月15日>
*災害医学研究と国際協力
日本の災害医学は1995年の阪神淡路大震災によって幕開け、2011年の東日本大震災で大きく進歩しました。現在なおさまざまな災害の経験を知識に変えて進化しつづけています。そのためには研究が欠かせず、常に変わっていく社会のリスクをみつけ、よりよい解決方法をエビデンスにもとづいて決定していくことが必要で、そのためのWHOガイダンス初の日本語版「災害・健康危機管理の研究手法に関するWHOガイダンス」が完成しました。再現や実験が難しい災害だからこその研究手法について説明します。

災災害科学国際研究所 災害評価・低減研究部門 計算安全工学研究分野 准教授 森口周二先生 (災害科学国際研究所 災害評価・低減研究部門 計算安全工学研究分野 准教授 森口周二先生)

<8月4日>
*2024年能登半島地震
2024年能登半島地震では、能登半島北部の陸域と海域にまたがるように断層が動き、地震動、津波、火災、液状化、土砂災害、地盤隆起など、複合的な被害形態となりました。半島という特殊地形は、周辺地域からの救援の手が入りづらい状況を生み出し、地震動、津波、土砂災害による道路の途絶は発災後の対応の大きな障害となりました。地震から半年以上経過した現在でも、地震の被害がそのままになっているところもたくさんあり、今後の急速な復興が望まれます。

<8月18日>
*力学に基づく土砂災害予測
我々の研究グループでは、市町村レベルの広域を対象にしながら、力学に基づいて斜面1つや家1軒のような高解像度で豪雨災害のリスクを評価できるようなシミュレーション技術の開発を進めてきました。また、令和元年東日本台風の再現解析を通じて、その有効性を確認してきました。今後、地質関連のデータベースの精度アップも並行して進めば、力学ベースのシミュレーションによるリアルタイム予測やハザードマップ作成の世界が見えてくるかもしれません。

災害科学国際研究所 防災実践推進部門 防災社会推進分野准教授 佐藤翔輔先生 (災害科学国際研究所 防災実践推進部門 防災社会推進分野准教授 佐藤翔輔先生)

<7月7日>
*マイ・タイムラインとその注意点
大雨や台風が心配な季節となりましたが、「いのちを守るための避難」の計画づくりを支援するツールとして、国土交通省などが開発した「マイ・タイムライン」が最近よく使われています。(https://www.mlit.go.jp/river/bousai/main/saigai/tisiki/syozaiti/mytimeline/index.html)。「台風などが近づき、大雨によって【河川の水位】が上昇する時に、自分がとる標準的な防災行動を時系列的に整理する」ために作られました。【河川の水位】とある点がポイントです。このマイ・タイムラインは、自宅や職場の近くにある大きな河川を対象に、その水位が避難判断水位または氾濫危険水位になったときに避難するという「外水氾濫が起きる前に避難すること」を促すツールになっています。
一方で、大雨や台風により発生する災害は、外水氾濫以外にも、内水氾濫や土砂災害がありますが、外水氾濫に比べて、いつどこで発生するのかがわかりづらい災害でもあります。わたしたちの研究室で、令和3年以降の被害が発生した水害を調査したところ、内水氾濫では。その発生1時間前に「大雨警報」が発表されていたのは約9割、土砂災害では、発生1時間前に「土砂災害警戒情報」が発表されていたのは約6割、「高齢者等避難」が発令されていた事例は100%でした。内水氾濫や土砂災害の発生が懸念されている場所では、これら大雨警報や土砂災害警戒情報、高齢者等避難が避難開始の参考になると言えます。

<7月21日>
*みやぎ東日本大震災津波伝承館での2つの企画
「災害」という言葉は、「(起きた)被害」だけでなく、それにともなう「災害対応」も含んだ概念であり、「災害対応」には、避難などの災害発生直後の「緊急対応」だけでなく、生活再建やまちづくりといった「復興対応」といった長期的なものも含まれます。今も災害対応がつづいている東日本大震災も進行中で、「東日本大震災を伝える」ということは、時間の経過にともなって「伝える内容」がどんどん増えていくということになります。そこで、災害科学国際研究所と宮城県が連携して、みやぎ東日本大震災津波伝承館で展示されている内容に加えて、新たにわかってきたこと、東日本大震災の「いま」について広く共有するために【3.11学びなおし塾】と【知りたい みやぎ復興の知恵】という2つの企画を実施しています。
【3.11学びなおし塾】は、宮城県内の大学・研究機関の研究者から、東日本大震災に関する学術研究について、広く一般の方向けに講話をいただき、東日本大震災を「学びなおす」ものです。【知りたい みやぎ復興の知恵】は、震災からの復興の最前線で活躍されている方から講話をいただき、東日本大震災における新たな学び・気づきを参加者と共有するものです。この企画は月に1回日曜11:00~12:00、【3.11学びなおし塾】は偶数月、【知りたい みやぎ復興の知恵】は奇数月に実施しています。会場に直接お越しいただくか、オンラインでの生配信と事後のアーカイブ配信をYouTubeで公開していますので、こちらをご覧ください。
3.11学びなおし塾
https://www.pref.miyagi.jp/site/denshokan/manabinaoshijuku.html
https://www.youtube.com/playlist?list=PLfCXJgza8G7nSBGYpXz6J_vQGFUMeHHBi

知りたい みやぎ復興の知恵
https://www.pref.miyagi.jp/site/denshokan/genbatanhou.html
https://www.youtube.com/playlist?list=PLfCXJgza8G7l0H9D8kNKIszycn1ioxTcZ

災害科学国際研究所 副所長/世界防災フォーラム代表理事 小野裕一先生 (災害科学国際研究所 副所長/世界防災フォーラム代表理事 小野裕一先生)

<6月2日>
*インド洋大津波から20年
今から20年前の2004年12月26日に、スマトラ沖地震による津波でインド洋に面する国々で20万人以上の死者が出ました。これは、早期警報システムや備えがなかったからです。国連としてユネスコ・IOC(政府間海洋学委員会)が中心となってインド洋に津波警報システムを作ることになり、当時国連で防災行政、特に早期警報システムに携わっていた私も責任者のひとりとして携わりました。今年6月にユネスコ・IOCはパリで、世界中から津波の生存者を招聘して記録に残すイベントを行うことになり、東北からも二人の参加者が見込まれています。

<6月16日>
*第4回世界防災フォーラムについて
2025年3月7-9日まで、仙台国際センターにて第4回世界防災フォーラムを開催します。2017年に始めたフォーラムですが、4回目の開催となります。テーマは『どうするキコヘン』です。温暖化で「地球が沸騰している」とも表現されていますが、国内外から一般市民、研究者、国際機関、NGO、政府、企業、メディア等の様々な方々にお越しいただいて、気候変動により災害リスクが高まっている現状と未来をどうするかについて、「気候変動適応」の観点から議論していただく予定です。

災害科学国際研究所 地震津波リスク評価寄附研究部門 プロジェクト講師 保田真理先生 (災害科学国際研究所 地震津波リスク評価寄附研究部門 プロジェクト講師 保田真理先生)

<5月5日>
*進化を続ける減災教育『結』プロジェクトについて
東北大学では、東日本大震災の教訓を踏まえ、防災・減災についての様々な取り組みを「減災教育事業」として行っています。震災直後には、同様な取り組みが多く見られましたが、10年間継続している事業は見られません。
2024年3月末で、訪問校は379校、児童生徒数は23,188人となりました。出前授業を通して、災害のメカニズムや防災行動をわかりやすく、我が事感を持ってもらうために、教材を工夫してきました。コンピュータグラフィックを活用したり、比較実験を行ったりしたものを見てもらっています。教材として、以前もご紹介した減災ハンカチに加え、災害場面の行動をイメージする防災・減災スタンプラリーを取り入れて、ゲームを楽しみながら、災害の状況を学びます。昨年度からは、災害発生から復旧・復興までの時間の経過の中で、自分だけではなく家族や周囲の人々がどのような行動をするかを考える「アワタイムライン」を取り入れた授業も行なっています。学校のDX化が進み、子どもたちは一人1台のタブレットを持つようになりましたので、Googleスプレッドシートを使って、グループで協同編集できるゲーム性のある仕掛けを作っています。子どもたちの中で、家族や近所の人々とのコミュニケーションの大切さや、被災後の生活に必要な備えが理解できる仕組みとなっています。子どもたちが防災について理解を深め、自分なりに減災行動を考えることで、防災意識が向上するとともに持続性のあるものになることを目指しています。

<5月19日>
*子どもたちの防災意識に関わる要因について
「結」プロジェクト出前授業10年間の継続(地域や学年も限定しない取り組み)によって子どもの防災意識はみな同じではなく、居住する地理的な特性に由来する「地域差」があり、小学生から中学生に成長していく「学齢差」や誰とどこで学ぶかという「学習環境差」があることが明らかになりました。その要因として、「地域差」には過去の被災体験の有無、地域における防災への取り組み状況(地区の防災訓練など)、将来の災害発生リスクが考えられます。「学齢差」には発達による認知力の向上によって災害の状況や被災場面が具体的にイメージできることがあげられます。さまざまな防災・減災行動を行えば自分や家族が安全になるということが理解され、防災そのものが自分にとって利用価値があると認識され、小学生より中学生の防災意識が持続することが明らかとなりました。「学習環境差」についても、学校より地震防災センターのような揺れ体験や展示を見る施設で、家族ぐるみで学習することによって、親子のコミュニケーションが深まり、高まった防災意識が持続することが明らかとなりました。今後の防災教育をより効果的なものにするため、地域特性を踏まえた内容であること、防災行動をすると自分や家族にとって価値のあるものになるという、よりお得感のある内容にすること、意識や意欲は時間経過によって薄らいでいくものなので、フォローアップしていくことがより良い防災教育に繋がるでしょう。

災害科学国際研究所 災害人文社会研究部門 国際防災戦略研究分野准教授 泉貴子先生 (災害科学国際研究所 災害人文社会研究部門 国際防災戦略研究分野准教授 泉貴子先生)

<4月7日>
*東南アジアにおける防災対策:マレーシア
マレーシアの主な災害は洪水・地滑りです。近年、地球温暖化の影響により、洪水の被害が増加し、2021年にはこれまでに最悪の洪水被害がでました。この洪水をきっかけに、それまであまり深刻な被害に直面したことがなかった州や自治体が防災対策の必要性に気づき始めました。2018年から、マレーシア スランゴール州の4つの地域で防災プロジェクトを実施することになりましたが、これらの地域は、当初、住民が自分たちも防災に貢献できるという意識が薄い、早期警報などの情報が伝わりにくい、将来のリスク予測のための災害被害データが少ない、などの課題がありました。このプロジェクトでは、「住民参加型」ということに重点をおき、自治体と住民が協力して、最終的に自分たちで防災対策を計画し、実施することを目標としていました。約5年間の活動の結果、4つの対象地域では、災害リソースセンターの設置、早期警報に関する情報共有、学校での防災教育の実施、ごみ拾いコンテスト、避難訓練の実施などの防災活動が住民主体で実施され、住民や自治体職員の防災に関する関心・知識が格段に高まりました。

<4月21日>
*東南アジアにおける防災対策:インドネシア
インドネシアはフィリピンに次いで、東南アジアでは2番目に災害が多い国です。インドネシアだけではなく、ここ数年は世界中が自然災害と新型コロナ感染症という2つのいわゆる「災害」に同時に向き合わなければなりませんでした。こうした様々な災害に対応するためには、現在の災害リスクアセスメントを見直し、より広範囲のリスクを事前に把握し、対策を立てることが重要です。このようなプロジェクトをインドネシアの西ジャワ州でインドネシアの地方防災局と行っています。この地域でこれまで最もリスクが高いと考えられてきた災害は、津波・洪水・火山噴火・地震・山火事などでした。しかしながら、今回あらためてリスクについて議論を行った際、指摘されたのは干ばつと環境災害のリスクでした。災害リスクは常に同じものではなく変化する可能性が高いため、まずはリスクアセスメントを定期的に実施する必要があります。今後は、研究者などが干ばつや環境災害などの新たなリスクに関する情報収集・分析を行い、主に自治体の方々と現在の防災対策を強化する活動を行います。西ジャワ州の次は、スマトラにおいても同様のリスクアセスメント・防災対策強化を実施する予定です。

災害科学国際研究所 災害評価・低減研究部門 陸域地震学・火山学研究分野准教授 福島洋先生 (災害評価・低減研究部門 陸域地震学・火山学研究分野 准教授 福島洋先生)

<3月3日>
*能登半島地震による地形変化
2024年元旦に発生した能登半島地震では、大きな地形の変化が生じました。能登半島北側の沿岸部では最大で4m以上の隆起が発生し、それまで海底だった部分が陸化しました。珠洲市や輪島市等の山間部では、多数の地すべりが発生しました。半島の北西部では、多くの副次的な断層のずれも見つかりました。これらの現象は、これまで知られていた能登半島の地形的特徴と整合的です。つまり、今回の地震は、数百万年以上という単位で起こってきた地形形成の謎を解き明かしてしまうような、最大クラスの大地震だったということになります。

<3月17日>
*トルコ南東部地震から1年
023年2月6日のトルコ南東部とシリアで大きな被害をもたらした地震から一年が経ちました。この一年の間、地震や被害を拡大させたメカニズムなどについては多くのことがわかりましたが、復興という観点では長い道のりが残っています。この多大な犠牲を伴った大震災を後世に活かしていくことも大変重要であり、現在、日本とトルコの研究者でチームを組み、震災を教訓とした防災教育の国際共同研究プロジェクトを実施しています。

災害科学国際研究所 災害評価・低減研究部門 地震工学研究分野准教授 榎田竜太先生 (災害科学国際研究所 災害評価・低減研究部門 地震工学研究分野准教授 榎田竜太先生)

<2月4日>
*令和6年能登半島地震の被害調査に関して
2024年1月1日16時10分に発生した能登半島地震(マグニチュード7.6)において、建物に被害を及ぼしやすい1-2秒周期の強い揺れが観測された。発災から4日後に穴水町の現地調査を行った際に、阪神淡路大震災で見られたような木造家屋の一層崩壊がいたるところで生じていた。1981年より前に建てられた「旧耐震」の建物に倒壊が多く、それ以降の「新耐震」でも、築年数の古いものほど、被害が大きかった。一方、2000年に見直された現在の基準で建てられた建物の多くが軽微な被害にとどまっていた。

<2月18日>
*免震構造物や最新の耐震技術に関して
2024年1月1日の能登半島地震では、七尾市の免震病院が震度6強の揺れに見舞われながらもほぼ無傷となり、地震後の機能継続を確保した。このように、免震構造物の高い耐震性能が示されている一方で、その利用は病院などの重要度の高い構造物に限られている。現在、東北大学では、一般構造物にも免震効果を普及することを目的に、コンクリート・鉄・黒鉛を用いた、経済性を重視した直置き型構造物という新たな構造形式を開発している。更なる研究を進めて、近い将来に実用化につなげ、高耐震構造物の普及を推進したい。

災害科学国際研究所 災害人文社会研究部門 歴史文化遺産保全学分野准教授 川内 淳史先生 (災害科学国際研究所 災害人文社会研究部門 歴史文化遺産保全学分野准教授 川内 淳史先生)

<1月21日>
今から100年前の1923年(大正12)9月1日11時58分、相模湾北西部(相模トラフのプレート境界沿)で発生した大正関東地震は、関東1府6県(東京、神奈川、千葉、埼玉、茨城、静岡、山梨)を中心に、死者行方不明者10万人以上の甚大な被害を発生させました。「関東大震災」です。近代史上はじめて日本の中枢部を襲った大震災は、被災地域のみならず日本全国、さらには海外へも大きな影響をおよぼしたと考えられます。しかしながら、これまで関東大震災に関わる研究では、主として東京や神奈川などの甚大な被害を受けた地域へ関心が集中し、震災が被災地外へ与えた影響については十分な検討がなされてきませんでした。
そこで東北大学災害科学国際研究所では、より広い視野にたって関東大震災の影響を考えるために、パネル展「関東大震災と仙台・宮城」を開催(2023年9月15日~12月22日)し、当時の記録をもとに、関東大震災が仙台・宮城の人々にとっても大きな影響をもたらしたものであったことを明らかにしました。今回は、この展示の成果を通して、関東大震災と仙台・宮城との関係について紹介したいと思います。

災害科学国際研究所 災害人文学研究部門 災害文化アーカイブ研究分野准教授 蝦名 裕一先生 (災害科学国際研究所 災害人文学研究部門 災害文化アーカイブ研究分野准教授 蝦名 裕一先生)

<1月7日>
*G7仙台科学技術大臣会合のエクスカーション
昨年5月13日、仙台市で開催されたG7仙台科学技術大臣会合のエクスカーションとして、G7各国の科学技術大臣が私たちの災害科学国際研究所を訪問しました。このイベントでは、東北大の大野総長や災害研の栗山所長から、現在の災害研究について説明がある中で、私は歴史遺産の保存活動や文理融合による災害研究の展示紹介を担当しました。当日、災害文化アーカイブ研究分野の特任教授であるJ・F・モリスさんと一緒に、最新の文化財の保存手法として開発している文化遺産マップや、400年前の慶長奥州地震津波についての文理融合型の研究について紹介しました。また、東日本大震災の際に津波で被災した屏風を展示し、その屏風をめくった裏に古文書がびっしり張り込まれている様子をみた大臣からは、驚きの声があがっていました。

東北大学大学院文学研究科 心理学研究室教授 阿部恒之先生 (東北大学大学院文学研究科 心理学研究室教授 阿部恒之先生)

<12月3日>
*台湾における「CPTEDと東日本大震災」の講演
10月末から11月初旬まで、台湾の4か所の大学で講演をしてきました。今回は、主としてCrime Prevention Through Environmental Design(通称CPTED:セプテッド、環境デザインによる犯罪予防)と東日本大震災に関するお話をしました。東日本大震災では、助け合う被災者の姿が印象的でしたが、犯罪がなかったわけではありません。2014年の2000人規模の調査では、0.8%の方が自転車・バイク泥棒、0.4%の方が空き巣被害に遭っていました。この犯罪被害は、災害被害の状況によって異なり、例えば、停電日数が60日間になると停電のなかった地域の人に比べて2.3倍の被害に遭っていました。これは、暗闇に乗じて犯罪が生じるということであり、CPTEDが重視する監視性が弱体化したことによって生じた犯罪だと思われます。

<12月17日>
*インドネシアにおける化粧心理学の集中講義
インドネシアのバンドンにある大学のお招きで、集中講義をしてきました。スケジュールの都合で、台湾から直行です。内容は、私の専門の「化粧心理学」です。2日間にわたって計7時間半の講義を行いました。200名くらいの学生(ほとんど女性)が熱心に聞いてくれました。インドネシアは憲法で宗教の自由を保障していますが、 85%以上がイスラム教徒です。アラブに比べて戒律は緩いようですが、それでも女性はヒジャブという、頭からすっぽりかぶる被り物をしている方が大半です。その女性たちが、化粧に強い関心を持っていることに驚きました。活躍目覚ましいインドネシアの女性たちの間で、自らの外見に対する新しい意識が芽生え始めたのかもしれません。

災害科学国際研究所 災害精神医学分野准教授 國井泰人先生 (災害科学国際研究所 災害精神医学分野准教授 國井泰人先生)

<11月19日>
*SNS情報を活用した災害に伴うメンタルヘルスニーズの把握について
災害精神医学分野では、災害医療情報学分野などとの共同で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関して、SNS情報の分析に基づいて、集団におけるメンタルヘルスの実態を予測するという研究を行いました。また、トルコ・シリア地震についても同様の解析を実施し、コロナ禍で増加した自殺者数についての予測解析も行っています。これらの取り組みをご紹介できればと思います。

東北大学大学院医学系研究科 精神神経学分野 兼 災害科学国際研究所 災害精神医学分野教授 富田博秋先生 (東北大学大学院医学系研究科 精神神経学分野 兼 災害科学国際研究所 災害精神医学分野教授 富田博秋先生)

<11月5日>
*日本の災害メンタルヘルス支援体制の整備状況について
日本では、東日本大震災におけるメンタルヘルス支援の上で浮かび上がった課題を踏まえて、災害が発生した後、精神科医療機関や地域でメンタルヘルスの問題を抱えた人をサポートすることを目的とした災害派遣精神医療チーム(DPAT)の制度が発足し10年程が経過しました。今後、想定される激甚災害も見据えて、今ある体制の現状と課題、展望についてお話させて頂きます。

東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻教授 兼 災害科学国際研究所 気象・海洋・宙空災害研究分野教授 須賀利雄先生 (東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻教授 兼 災害科学国際研究所 気象・海洋・宙空災害研究分野教授 須賀利雄先生)

<10月1日>
*「地球温暖化の時代」から「地球沸騰化の時代」へ
国連のグテーレス事務総長は、今年7月の会見で「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と述べました。世界気象機関(WMO)などが、この7月の世界の平均気温が観測史上最高なると発表したことを受けたものです。この夏は、日本では最高気温が35度を超えるのが当たり前というような猛暑で、各地で最高気温が更新されました。世界に目を向けると、中央アジアや東南アジアでも異常高温・少雨、地中海沿岸、カナダ、米国南部から南米大陸などの各地で異常高温が記録されるなど、猛烈な熱波や異常乾燥に見舞われました。水が沸騰する100度になるわけではないですが、「沸騰化」という言葉に納得させられるような猛暑だったと思います。また、この言葉は、地球温暖化の問題を、実感をもってイメージしてもらう助けにもなりそうです。もともと、地球には太陽放射が入ってきて、それと同じ量の地球放射(赤外放射)が宇宙へ出ていくことで、バランスが保たれていました。人間活動にともない大気中の温室効果ガスが増加したため、宇宙へ出ていく赤外放射が減り、その分のエネルギーが熱として地球に蓄積されている、これが地球温暖化です。やかんを極弱火のコンロにかけて、加熱し続けているようなもので、じわじわですが確実に温度は上がり続け、気づいた時には手が付けられない—と例えられます。防災にも直結する地球温暖化の緩和策・適応策に、「自分ごと」として取り組むためにも、このような温暖化の本質をイメージすることが有効かもしれません。

<10月15日>
*10月15日 地球沸騰化と海
今年の7月に世界の平均気温が観測史上最高となったことが注目され、「地球沸騰化」という言葉も生まれました。しかし、異常さという意味では、海の温度、正確には海面の温度、すなわち海面水温の振る舞いのほうが際立っています。世界平均の海面水温が一番高くなるのは、海の面積が北半球よりも約2倍広い南半球の夏の終わりである8月です。ところが今年は、北半球の夏に向けて温度が上がり続け、3月に記録した観測史上最高値を8月に更新したのです。これは、地球の通常の季節サイクルを逸脱してしまったかのような振る舞いです。海面水温の異常高温は、海洋熱波とも呼ばれるようになりましたが、災害をもたらすような異常気象の原因となるだけでなく、環境の維持や食料供給にも欠かせない海洋生態系にも甚大な影響を与えます。たとえば、私たちが吸っている酸素は、植物の光合成で作られますが、その半分は「海の植物」、すなわち、植物プランクトンが担っています。海洋生態系の変化は、海の生き物だけでなく、陸上に棲む私たちの環境にも多大な影響を与え得るのです。地球温暖化にともない地球が蓄積した熱の90%以上を引き受けてきた海の今後の変化を注視していく必要があります。東北大学でも、国内外の研究機関と協力して、世界の海に展開された約4000台のロボットによる観測網Argo(アルゴ)のデータを使って、海の変化とそのメカニズムを研究しています。

災害科学国際研究所 災害医療国際協力学分野教授 江川新一先生 (災害科学国際研究所 災害医療国際協力学分野教授 江川新一先生)

<9月3日>
*トルコ・シリア地震と災害医療
2023年2月6日に発生したトルコ南部とシリアの大地震は多大な犠牲者を出し、建物の倒壊が最大の直接死亡の原因となりました。
仙台防災枠組では、2030年までに社会の重要なインフラ、とくに教育(学校)と医療(病院)のインフラを災害被害から守ることが世界的な目標として掲げられています。世界保健機関(WHO)では、2008年から世界中で「安全な学校と病院」のキャンペーンを行い、何千もの施設が耐震補強されました。トルコでは新しく建築される病院には免震構造が義務付けられ、免震構造の病院は倒壊せず機能した一方で、多くの医療従事者も命を失いました。阪神淡路大震災の20倍ものエネルギーが放出されたトルコ・シリアの地震で、何がうまく行き、何がうまく行かなかったのかを考えます。

<9月17日>
*在宅避難と関連死
わが国で災害による関連死(間接死亡)が認識されたのは阪神淡路大震災からです。災害の原因となったハザードを生き延びたとしても、その後の避難生活や復旧・復興の過程、さらに長期経過後に、人々はさまざまなからだとこころの不調と向き合わなくてはなりません。在宅避難は今後ますます多くなります。全壊・半壊を免れた家庭でも、ライフラインや食料・薬剤の不足などきびしい環境のなか、どのように健康被害を少なくしたらよいかについてお話します。

災害科学国際研究所 災害評価・低減研究部門 計算安全工学研究分野 准教授 森口周二先生 (災害科学国際研究所 災害評価・低減研究部門 計算安全工学研究分野 准教授 森口周二先生)

<8月6日>
*2023年トルコ南東部地震
2023年2月6日にトルコ南東部を震源として発生した地震から約3か月後にあたる5月上旬に現地調査を行いました。地震を発生させた東アナトリア断層に沿って、盆地が点在しており、その上に街が形成され、被害を受けていることを確認しました。ギョルバシでは、昔は大きな湖の底にあった地盤(湖底堆積物)の上に町が形成されており、地震動による大きな地盤変状が発生していました。カフラマンマラシュでは、古い旧市街地と2000年以降に開発が進んだ新市街地があるのですが、被害レベルは新市街地が圧倒的に高い結果となりました。この地域は谷部になっており、過去には農地として使用されていた経緯があります。時空間を広げて災害の被害を考える重要性を改めて感じました。

<8月20日>
*線状降水帯と土砂災害
土砂災害の予測に重要な気象予測技術や観測網は高度に発達してきています。気象庁は平成30年7月豪雨(西日本豪雨)の被害などを教訓として、観測網を強化するとともに、2年前から線状降水帯の予測情報の事前発令にも取り組んでいます。線状降水帯の予測は非常に難しいため、的中率はまだそれほど高くはありませんが、この取り組みは今後の豪雨災害のリアルタイム予測の精度アップために極めて重要なものです。不完全な情報でも、勇気をもってその情報を公の場に出すことで、社会が反応し、効率的にシステムが洗練されていくものと思います。現状の精度を理解しながら、みんなの議論に基づいて、より良い予測技術へと発展していくと良いなと思います。

災害科学国際研究所 防災実践推進部門・防災社会推進分野准教授 佐藤翔輔先生 (災害科学国際研究所 防災実践推進部門・防災社会推進分野准教授 佐藤翔輔先生)

<7月2日>
*令和元年東日本台風での大郷町中粕川の事例をもとにクイズ。
Q1:多くの人が避難をスタートしたタイミングは?:「高齢者等避難」(当時は避難準備情報、明るいうちに、もポイントです)
Q2:高齢者等避難が発表されてから、地域の役員さんや消防団が見回りをして、避難を促しました。その見回りの回数は?:3回(1回では逃げてくれない人もいました)
Q3:多くの人が避難所に避難していましたが、しばらくして、雨が弱まりました。自宅に戻るタイミングとして、適切なのは?:避難指示が解除されたら(雨が弱まった後に堤防が決壊しました)
Q4:この地域が行っていた避難のための工夫は?:避難の有無を知らせる旗、避難行動要支援者の把握、大雨のたびに行うふりかえり。
早めの行動+しっかりとした地域での備えがポイントです。

<7月16日>
*時短型災害語り部学習手法「ツナミリアル」
被災地では、被災体験を聞く語り部学習が盛んに行われています。一方で、語り部による講話は概ね1時間以上であること、語り部から聞き手への一方向的なコミュニケーションに留まることなどの課題も少なくありません。そこで、一般社団法人石巻震災伝承の会と共同で「ツナミリアル」という新しい語り部学習手法を開発しました。この学習方法は、(1)語り部の話を聞く前後のワークを含めて30分で完了する、(2)災害体験のリアリティを強調する、(3)聞き手が受け身にならず、アウトプットの作業をする、(4)学習した内容を持ち帰ることができる、という4つの特徴があります。この「ツナミリアル」は、石巻市震災遺構・門脇小学校で体験することができます。ぜひお問い合わせください。
https://www.ishinomakiikou.net/kadonowaki/

災害科学国際研究所 副研究所長世界防災フォーラム代表理事 小野裕一先生 (災害科学国際研究所 副研究所長世界防災フォーラム代表理事 小野裕一先生)

<6月4日>
*第3回世界防災フォーラムについて
世界防災フォーラムは、国内外から産・官・学・民の多様なステークホルダーが集結し、東日本大震災の教訓や日本の防災の知見を世界へ発信して防災の具体的解決策を創出する、日本発の「市民参加型」国際防災フォーラムです。2023年3月10~12日、第3回となる世界防災フォーラムが仙台国際センターにて開催され、30の本体会議セッションをはじめとする多くの会合が開かれました。閉会式では、仙台防災枠組の中間評価を実施する国連防災機関の水鳥真美代表へ、世界防災フォーラムからの提言が手渡されました。参加者は40の国・地域から5,412名となりました。今回、新たに「世界防災賞」を設け、授与式も行われました。

<6月18日>
*世界防災賞を受賞した米国の故クーリッジ大統領
今年は関東大震災から100年目の節目の年ですが、国境を越えた支援が当時の被災地であった東京・横浜の両市に寄せられました。中でも一番の支援を申し出てくれたのがアメリカでした。当時は日本人移民の排斥運動が起きるなど、日米関係は今ほど良好ではありませんでした。間髪を入れずに日本を支援してくれたのが、当時のアメリカ大統領だったクーリッジです。クーリッジ大統領が日本支援に至った理由について考えてみたいと思います。

災害科学国際研究所 地震津波リスク評価寄附研究部門 プロジェクト講師 保田真理先生 (災害科学国際研究所 地震津波リスク評価寄附研究部門 プロジェクト講師 保田真理先生 )

<5月7日>
*「減災教育『結』プロジェクト」について
東北大学では、東日本大震災の教訓を踏まえ、防災・減災についての様々な取り組みを「減災教育事業」として行っています。そのひとつが、2014年度より行っている「減災ポケット『結』プロジェクト出前授業」(2019年度から、「減災教育『結』プロジェクト」に名称変更)です。
このプロジェクトは、震災の経験を風化させず次世代へ語り継いでもらうことや、いざという時の対応力を高めることを目的としており、減災についての知識や理解を深める出前授業を行い、「持ち歩く減災意識」をコンセプトに開発した「減災ハンカチ」を配布し、家庭で活用(例えば、学習内容の復習や家族とのコミュニケーション)するように伝え、減災意識を育む防災教育を展開しているものです。震災直後には、同様な取り組みが多く見られましたが、10年間継続している事業は見られません。コロナ禍にあっても、継続する手法を模索し、工夫を続けて現在に至っています。また、訪問する地域は、東北のみならず、南海トラフエリアを含む国内全域から海外の被災地まで行っており、小学生のみならず中学生も対象としています。東日本大震災の記憶を持たない世代に対しても防災教育の実践を続けています。

<5月21日>
*防災教育の変遷と子どもたちの意識の形成
防災教育の実践では、その効果の検証が求められますが、これまでは、防災教育を実践する人によって達成したい目的や内容が異なり、効果の指標も異なるため、同じ様な教育が、他の地域や年齢の違う子どもたちにも同じ様な効果をもたらすのかが明確にされていませんでした。
東北大学の地域や年齢を限定しない継続したプロジェクトの実施によって、子どもたちの防災意識の地域差や学齢差を初めて明らかにすることができました。例えば、東北地域だけではなく、他の地域の子どもたちも、沿岸部の子供たちの防災意識は内陸部の子供たちより高いです。また、意識の持続性はその事前の防災意識や、災害の経験、災害の情報量、家庭での話し合いによって異なることも明らかになりました。小学生と中学生にも差が見られます。中学生は小学生に比べて、防災学習意欲は高くないのですが、学んだことを実行に移す能力は小学生に比べれば高いです。
今年は関東大震災から100年の節目の年です。これまで学校で行われてきた火災避難訓練は、この大震災の影響が強く、社会と教育を変えた出来事でした。これから、東日本大震災を経験して、教育現場でどの様な教育がなされ、社会がどのように変化するのか、防災が生活に取り込まれる過程は、まだ道半ばに思えます。

災害科学国際研究所 防災実践推進部門・国際研究推進オフィス准教授 マリ・エリザベス先生 (災害科学国際研究所 防災実践推進部門・国際研究推進オフィス准教授 マリ・エリザベス先生 )

<4月2日>
*三陸沿岸での経験から学ぶ、アメリカ西海岸の地震と津波への備え
2023年2月6に、トルコ南東部でマグニチュード7.8の地震が発生しました。この地震では、プレートの境界となっている東アナトリア断層の300kmという長大な範囲がずれ動きました。マグニチュード7.5という大余震も含め、多数の余震も発生しました。今回の震央付近でマグニチュード7.8以上の地震が起こったのは1114年までさかのぼりますから、まさに1000年に1回の大地震と言えます。多くの犠牲者が発生してしまいましたが、その主要因は、耐震性が十分でない建物が多かったことにあると考えられます。トルコは、昔から地震による被害を受けてきた歴史があり、近年も防災への取り組みを強化してきた国ですが、そのような国でもこのような大災害が発生するということは、地震に強い社会づくりがいかに難しいかを示しています。

<4月16日>
*東日本大震災の伝承について
災害研の同僚と協力して、ハワイのヒロにある太平洋津波博物館で新しい3.11展示を作成しました。太平洋津波博物館は、1946年と1960年の津波の経験と物語を保存し、津波の危険性について訪問者を教育するために、地域住民によって設立されました。多くの訪問者は、東日本大震災で何が起こったのかを知りたがっています。東北とハワイをつなぐ物語の一つに、津波により石巻市雄勝からハワイに漂着した「第2勝丸」の話があります。多くの方々のご協力とご支援により、奇跡的に帰還したこの小舟の実話は、絵本『帰ってきた小船』にもなりました。博物館のボランティアが絵本を通じて災害の物語を訪問者と共有することで、震災を語り継ぎ、風化を防ぐことに役立っています。

災害評価・低減研究部門 陸域地震学・火山学研究分野 准教授 福島洋先生 (災害評価・低減研究部門 陸域地震学・火山学研究分野 准教授 福島洋先生)

<3月5日>
*トルコ南東部の地震
2023年2月6に、トルコ南東部でマグニチュード7.8の地震が発生しました。この地震では、プレートの境界となっている東アナトリア断層の300kmという長大な範囲がずれ動きました。マグニチュード7.5という大余震も含め、多数の余震も発生しました。今回の震央付近でマグニチュード7.8以上の地震が起こったのは1114年までさかのぼりますから、まさに1000年に1回の大地震と言えます。多くの犠牲者が発生してしまいましたが、その主要因は、耐震性が十分でない建物が多かったことにあると考えられます。トルコは、昔から地震による被害を受けてきた歴史があり、近年も防災への取り組みを強化してきた国ですが、そのような国でもこのような大災害が発生するということは、地震に強い社会づくりがいかに難しいかを示しています。

<3月19日>
*南海トラフ地震臨時情報プロジェクトと北海道・三陸沖後発地震注意情報
南海トラフ地域において、マグニチュード7.0以上の地震か異常なゆっくりすべりが発生し、南海トラフ地震の発生する可能性が平時より高まったと評価されると、「南海トラフ地震臨時情報」が発表されます。災害科学国際研究所では、3年にわたる「南海トラフ地震臨時情報プロジェクト」の成果として、このたび、自治体や企業などが実効的な対応計画を作成する際の参考となる資料をパッケージ*として公開しました。また、昨年12月からは、「北海道・三陸沖後発地震注意情報」の運用が始まっています。どちらも、マグニチュード8以上の巨大地震に警戒・注意を促すものです。情報が発信されても必ず巨大地震が発生するわけではありませんが、いざという場合によりよく備えるための情報として、有効活用してもらいたいと思います。 *https://irides.tohoku.ac.jp/research/interdisciplinary/nakaitrough_secom.html

災害評価・低減研究部門 地震工学研究分野准教授 榎田竜太先生 (災害評価・低減研究部門 地震工学研究分野准教授 榎田竜太先生)

<2月5日>
*関東大震災と建築技術
今から100年前の1923(大正12)年9月1日午前11時58分に、神奈川県西部を震源とする大正関東地震(マグニチュード7.9)が発生し、震度7相当の強い揺れが神奈川県を中心とする広い関東圏を襲いました。これによって、死者10.5万人(このうち火災による死者は9.2万人)、被害総額55億円(当時の日本のGDP155億円の36.7%)にも上り、日本の災害史上最悪の被害をもたらしました。
この関東大震災を契機に、構造物の耐火・耐震性能の重要性が強く認識され、それらの成果が現在の建築技術の礎になっています。

<2月19日>
*阪神淡路大震災とその後の耐震研究
1995年(平成7年)1月17日午前5時46分に、淡路島北淡町野島断層を震源とする兵庫県南部地震(マグニチュード7.3)が発生し、神戸市を含む市街地域において震度7相当のきわめて強い揺れが生じました。この揺れによって、10.5万棟の構造物が倒壊し、死者・行方不明者6437名(建物の崩壊に関わる窒息・圧死が約80%)にも上る阪神淡路大震災が起きました。
この震災を契機に、構造物の破壊メカニズムに関する研究が促進され、日本全域を網羅する地震観測網も整備され、現代の地震減災の基礎となっています。

災害人文社会研究部門 災害文化アーカイブ研究分野准教授 蝦名裕一先生 (災害人文社会研究部門 災害文化アーカイブ研究分野准教授 蝦名裕一先生)

<1月1日>
*仙台城の石垣と地震
令和4年3月の地震では仙台城の石垣の一部が崩壊しましたが、伊達政宗の時代、元和2年7月28日(グレゴリオ暦1616年9月9日)にも地震によって仙台城の石垣が崩壊しています。現在、私たちが目にしているのは切石が積まれた「切込接(きりこみはぎ)」の石垣ですが、約25年前に仙台城の石垣が解体修理された結果、その後ろに2層の石垣が発見され、政宗の時代に築かれた自然石を積み上げた「野面(のづら)積み」の石垣も発見されました。これは石垣の発達の歴史がわかる大変貴重な史跡です。
当時、仙台市では石垣の上に櫓を建設しようという動きがありましたが、政宗の石垣を破損する恐れがあるためこれを断念、その後、仙台城の石垣は貴重な歴史を示す存在として国の史跡に指定されました。よく「仙台城を観光しても何も無い」という声がありますが、実はこの石垣こそが、伊達政宗が築いた仙台城の歴史を最も雄弁に語っている史跡なのです。

<1月15日>
*福島県沖地震での文化遺産のレスキュー活動
令和3年2月13日と令和4年3月16日に発生した福島県沖地震では、宮城県南や福島県の沿岸部で震度6強の揺れが確認されました。今回の福島県沖地震では、人的被害こそ少なかったものの、建造物の被害はかなり深刻でした。この地震に際し、私たちは福島県の資料ネットと合同で文化遺産の被災状況を調査し、被災地の巡回や被災した文化遺産のレスキュー活動を実施しました。
今回、この活動をきっかけとして、相馬市民の方々が中心となって「そうま歴史資料保存ネットワーク」が立ち上がりました。これは、地域の歴史や文化遺産を地域に住む自分たちの手で守っていこうという新しい形の資料ネットになります。福島沖地震の被害地域の歴史や文化遺産を守る活動はまだこれからといった所ですが、研究者と地域の方々との連携によって、これらを未来に継承する方法を考えていきたいと思います。

東北大学大学院文学研究科 心理学研究室教授 阿部恒之先生 (東北大学大学院文学研究科 心理学研究室教授 阿部恒之先生)

<12月4日>
*国際交流の再起動
2022年は東北大学創立115周年、文学部創立百周年でした。その一環として、タイのチュラロンコン大学心理学部との共同主催による国際シンポジウム「健康とウェルビーイング」(8月24日、仙台国際センター)が開催されました。また、欧州を中心とする15か国25大学と東北大学の交流組織である支倉リーグから、ローマ大学など、7か国・8大学の学長をお招きした「支倉サミット」も開催されました(9月30日、川内萩ホール)。
また、10月末、英国・BBC放送の撮影スタッフが来仙し、東北大学キャンパスや花壇自動車学校でカラスの行動を撮影した時には、学生たちがこれに協力しました。長い間コロナで抑制されていた大学の国際活動が、ようやく再起動し始めました。

<12月18日>
*仁平カラス
BBC撮影隊の狙いは、クルミを自動車に轢かせて中味を食べるカラスです。仙台にお住まいの方は見たことがあるかもしれませんが、こういう行動をするカラスは仙台以外にはめったにいません。つまり、仙台に特徴的な「カラスの文化」なのです。仙台のカラスの文化の研究を始めて行ったのは、東北大学文学研究科心理学研究室の仁平義明先生でした。よって、敬愛の念を込めて「仁平カラス」と呼んでいます。
カラスの研究は、仁平先生の愛弟子である今野晃嗣先生が引き継ぎました。現在は山梨の帝京科学大学において、カラスはクルミの大小を判断できるかなど、新たな視点の研究を行っています。今野先生自らご登場され、今回のBBCの撮影をきっかけに、仙台の仁平カラスの研究を再開したことをお話ししてくださいました。

災害科学国際研究所・災害精神医学分野教授 富田博秋先生・國井泰人先生 (災害科学国際研究所・災害精神医学分野教授 富田博秋先生・國井泰人先生)

<11月20日>
*ウクライナ侵攻で危惧されるメンタルヘルスの課題
戦争・紛争やテロリズム等の人為的災害による心の外傷・トラウマは心的外傷後ストレス障害をはじめとするメンタルヘルスへの悪影響を強く引き起こします。現地の方々の生命・生活とともにメンタルヘルスは気になるところですが、遠く日本からできることは限られています。東日本大震災後、東北大学に設置された災害科学国際研究所としてのこの問題への取り組みをご紹介し、緊急時のメンタルヘルスについての国際的な連携のあり方にも触れたいと思います。

災害科学国際研究所・災害精神医学分野教授 富田博秋先生 (災害科学国際研究所・災害精神医学分野教授 富田博秋先生)

<11月6日>
*長引くコロナ禍のメンタルヘルスへの影響災
2020年1月30日、世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス感染症について、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言しましたが、当時から2年半以上の長きに渡って、私たちは、刻々と様相を変えながら継続する緊急事態下での生活を余儀なくされてきました。コロナ禍が年単位でメンタルヘルスに及ぼす影響と心の健康を維持する上での留意点について、東日本大震災などの自然災害による年単位の影響との異同にも触れながらお話したいと思います。

東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻教授(兼)災害科学国際研究所 気象・海洋・宙空災害研究分野教授 須賀利雄先生 (東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻教授(兼)災害科学国際研究所 気象・海洋・宙空災害研究分野教授 須賀利雄先生)

<10月2日>
*「宮城県の気候変動」と防災
国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が昨年から今年にかけて、第6次評価報告書を公表しました。その中で、人間活動に起因する気候変動、いわゆる地球温暖化によって、世界中の全ての地域で、熱波、大雨、干ばつ、熱帯低気圧のような極端現象の頻度と激しさが増してきたことは、ほぼ確実であると評価しています。さらに、地球温暖化がさらに進行するにつれ、極端現象の変化は拡大し続けるとしています。極端現象の激しさと頻度の増大は、災害のリスクの増大に直結しますので、IPCCの報告書には防災の観点からも大いに注意を向けるべきですが、世界全体を対象とした報告書であるため、日本に関わる情報を容易には読み取れません。そこで、文部科学省と気象庁は協力して『日本の気候変動2020』を作成し、2020年12月に公表し、さらに、気象庁はこれに基づく都道府県別のリーフレットを今年2月に発行しました。リーフレット『宮城の気候変動』では、パリ協定に沿った地球温暖化緩和策を施した場合と、追加的緩和策を取らず現状維持で推移した場合の今世紀末の宮城県の将来予測をわかりやすく示しています。たとえば、追加的緩和策なしの場合、宮城県では年間の真夏日が約43日増加すると予測しています。『日本の気候変動2020』と『宮城の気候変動』は、気象庁のウェブサイトから誰でも入手できます。ぜひ変化する気候を意識した防災に役立ててほしいと思います。

<10月16日>
*地球温暖化と海洋熱波
海洋熱波(Marine heatwave)とは、海の水温が過去の記録と比較して、その時期としては異常に高く、その極端な高温が数日から数か月間持続する期間のことをいいます。この現象は、海洋のあらゆる場所で、数千キロメートルのスケールで現れる可能性があります。アラスカ州からカリフォルニア州南部までの米国西海岸沖で2014年から2016年にかけて発生した海洋熱波「ブロブ」(暖水の塊というような意味か?)は、海洋生態系に甚大な影響を及ぼし、大きな注目を集めました。同様の現象が2019年にも発生しています。IPCCの報告書は、地球温暖化の進行にともない、海洋熱波の発生頻度と規模が増大してきており、その傾向は今後さらに強まると予測しています。東北・北海道沿岸から沖合にかけても海洋熱波が頻発しており、サンマの著しい不漁など、漁業生産に大きな被害を与えていると考えられています。さらに、異常に高い海水温は気象にも影響を与え、たとえば、東北地方を直撃した令和元年東日本台風にともなう豪雨の要因は三陸沖で発生していた海洋熱波だったとする研究結果もあります。地球温暖化にともなう災害の激甚化を考える際には、海洋熱波にも十分注意を払う必要があると思います。

災害科学国際研究所 災害医療国際協力学分野教授 江川新一先生 (災害科学国際研究所 災害医療国際協力学分野教授 江川新一先生)

<9月4日>
*災害レジリエンスについて
災害の被害を少なくし、しなやかに復旧・復興し、次に備えるのが「レジリエンス」です。レジリエンスは社会にも個人にもあてはまります。東北大学は、今年4月に「災害レジリエンス共創センター」を設置し、全学的に研究と人材育成、そして社会にレジリエンスを実装することを市民の皆様、防災科学技術研究所、防災減災連携ハブ、海外の大学、国連機関など国内外のすべての皆様とともに作り上げていきます。

<9月18日>
*災害医療国際協力について
WHOと連携して、健康危機・災害リスク管理に関する研究ガイダンスを日本語に翻訳しています。また、ASEANの災害医療に関する学術的なネットワークのアドバイザーにもなっています。災害を引き起こすハザードは、いつ、どのような形で社会を襲うかわかりませんのでさまざまな研究が必要です。社会も個人もレジリエンスを増やして災害リスクを減らすことで、想定外にもしなやかに対応できる社会をめざします。

災害科学国際研究所 災害評価・低減研究部門准教授 森口周二先生 (災害科学国際研究所 災害評価・低減研究部門准教授 森口周二先生)

<8月7日>
*土砂災害防止法の改正
土砂災害に関する法律として「土砂災害防止法」があります。平成13年に施行されてから、これまでに何度か改正されていますが、平成29年の改正では要配慮者利用施設(配慮を要する人が利用する施設。福祉施設、学校、医療施設など)に対して避難計画の作成と訓練の実施が義務化されました。また、令和3年の改正では訓練の結果を市町村に報告することも義務化されました。しかし、警戒区域が隣接する、または警戒区域の中にある施設などは避難計画の作成には悩ましい課題が多く、施設管理者の経験とマンパワーも不足しているのが現状です。避難計画作成に対する柔軟な考え方とそれをバックアップする市町村や地域の体制が重要だと思います。

<8月21日>
*土砂災害の早期検知
土砂災害の前兆や初期の変状、および発生そのものを検知して防災・減災に役立てようとする研究は世界各国で進められています。現地に設置した計器による変位や水分量などの直接的な観測、衛星画像を用いた変状分析、発生後の振動を検知するもの、Web上の情報(SNS)などの分析など、様々なアプローチがあります。まだ発展途上の技術が多いですが、将来的には事前予測技術などとの組み合わせにより、より高度な防災情報を発信することができる可能性があります。ただし、降雨による土砂災害にはリードタイムがあるため、やはり早期非難が大前提となります。早期検知技術の発展と並行して、個人の防災能力や意識の向上を推進していく必要があります。

災害科学国際研究所 災害評価・低減研究部門 災害ジオインフォマティクス研究分野 助教 橋本雅和先生 (災害科学国際研究所 災害評価・低減研究部門 災害ジオインフォマティクス研究分野 助教 橋本雅和先生)

<7月3日>
*中小河川沿いに人はどれくらい住んでいる?
洪水リスクの所在を確かめたり、河川管理の効率化を進めるために、河川沿いにどれくらいの人が住んでいるか?を知ることが重要です。昨今の水害における被災は中小河川沿いで顕著に見られることから、全国の県管理中小河川の居住率を算定したところ、宮城県の中小河川は平均的に7割程度の区間に人が住んでいること、東北地方全体で見ると居住率は6割程度であることがわかりました。こうした結果を元に河川管理の効率化が可能な他、居住区間における住民情報の集め易さを判定し、住民参加の河川管理のあり方についても議論することができます。

<7月17日>
*携帯電話データを使って立ち退き避難の実態を知る
豪雨が発生すると自治体から避難情報が出され、対象となった住民は自身の状況に適した避難行動を取る必要があります。実際にどれくらいの人が避難行動を取っていたか?という問いに対して、これまで避難所の収容人数や、アンケートを使った調査がされてきましたが、最近は携帯電話の位置情報を使った研究により、年齢別や性別の避難状況を把握できるようになりました。令和元年東日本台風時の一部の地域を対象に解析を行ったところ、20-30代の女性が最も立ち退き避難をしていたことがわかりました。こうした結果により、避難を呼びかけるべき属性が明確になり、人的被害を軽減することができます。

災害科学国際研究所 2030国際防災アジェンダ推進オフィス教授 一般財団法人・世界防災フォーラム代表理事 災害統計グローバルセンター長 小野裕一先生 (災害科学国際研究所 2030国際防災アジェンダ推進オフィス教授 一般財団法人・世界防災フォーラム代表理事 災害統計グローバルセンター長 小野裕一先生)

<6月5日>
*World BOSAI Walk Tohoku+10「Build Back Betterを探す旅①
昨年秋の開催からコロナ禍の影響で延期しておりましたWorld BOSAI Walk Tohoku+10「Build Back Betterを探す旅」は、いわきから八戸まで徒歩で800キロを歩き、40日間にわたって各地で復興に取り組んでおられる一般の方々、語り部、自治体の職員、首長、伝承館等々、100名を越える方々にお会いして、4月23日土曜日の午後1時に無事、八戸市長にも迎えられる中で、八戸市の「みなっち」という伝承施設でゴールしました。福島から宮城までの行程のハイライトをお伝えいたします。一般公募はしませんでしたが、希望のあった中国とジンバブエの留学生、企業の方、韓国の総領事館の方にもところどころ、ご参加いただきました。

<6月19日>
*World BOSAI Walk Tohoku+10「Build Back Betterを探す旅②
岩手から青森の行程のハイライトをお伝えいたします。印象に残ったのは、親や子供、肉親等を津波で亡くされた方々が、一度は絶望の底に沈みながらも今日まで頑張ってこられたのは「誰かのため」があったからということでした。「利他の行動」が「よりより復興」にとって、切り離すことができない重要な要素であると感じました。お話していて感じたのは、聞く側の人間としての大きさ、度量、理解力などが試されたことです。相手の胸襟を開いてお話いただけるかどうかは、相手ではなく、結局こちらの人間性の総合力にかかっていると思いました。WALKのメンバーも防災や復興を超えて人生勉強になったと話しておりました。

東北大学大学院歯学研究科副研究科長 災害科学国際研究所教授 厚労省新型コロナ・クラスター対策班 小坂健先生 (東北大学大学院歯学研究科副研究科長 災害科学国際研究所教授 厚労省新型コロナ・クラスター対策班 小坂健先生)

<5月1日>
*コロナ禍でのGWの過ごし方
学生の春休み、年度末の人の異動と接触の増加、また、感染性の高いBA2への置き換わりなどにより、リバウンドが見られています。COVID-19(新型コロナウィルス)の発生から2年が経過し、経済活動の自粛からの転換も求められており、旅行やイベントをいかに安全に実施するかが課題となっています。ワクチンのブースター接種は重症化予防効果は高いのですが、感染予防効果については、時間とともに減弱します。そのため、ブースター接種者においても、ブレイクスルー感染や接種者のクラスターが発生する可能性があるのです。高齢者でのブースター接種は進んでいるものの、それ以外の年齢でのブースター接種は進んでいるとは言い難い。これらの状況を踏まえて、何に気をつけて、安全に楽しめばよいのかを説明します。

<5月15日>
*新型コロナウイルス感染症の後遺症について
あまり日本では話題になっておりませんが、新型コロナウイルスに感染した後1割から2割の人が後遺症に悩んでいると報告されています。肺炎を起こした方が呼吸器系の後遺症が残るのですが、感染自体は軽くても、学校や職場に行けないくらいの疲労感があると言ったことが多く報告されています。感染者の多いアメリカやイギリスなどでは多くの研究費が使われ、様々なガイドラインが出ていますが、日本では医療機関で対応してもらえない場合もあります。疲労感というのは本人しかわからないのですが学校や職場などできちんと理解し対応していただきたい。医療機関においても窓口を設置するなど後遺症に対応できるような体制づくりを進めていただきたいと思います。

災害科学国際研究所 災害人文社会研究部門 国際防災戦略研究分野准教授 泉貴子先生 (災害科学国際研究所 災害人文社会研究部門 国際防災戦略研究分野准教授 泉貴子先生)

<4月3日>
*新型コロナ感染(COVID-19)と自然災害
2019年に始まった新型コロナ感染症ですが、2年以上が過ぎた今もまだ現在進行形の状況が続いています。この間に多くの自然災害が発生し、たくさんの国々が感染症と自然災害という二つの災害対応に苦慮しました。この二つの災害では、全く異なるアプローチが必要となります。
感染症では、ソーシャルディスタンスが重要な予防手段ですが、自然災害の場合は、緊急避難などが必要となる場合もあります。その際は、密の状態になることが避けられません。特に、避難所でのソーシャルディスタンスをどのように維持するかが課題となります。他にも、検温や消毒液の設置などの手段も取られました。その結果、避難後のコロナ感染者数が急激に増加することはありませんでした。その一方で、その他の国々では、避難後に感染者数が急増したという例もあります。さらに、日本では、災害後のボランティアの数が減少するということもありました。このように、二つの災害に一度に対応するためには、事前の準備などが特に必要となってきます。また、従来の取り組みだけではなく、クラウドファンディングで復興活動を支援するなどの新しいしくみなども生まれました。
今回の感染症を経験して、今後の災害対策をどのように強化させるべきか、検討する必要があります。

<4月17日>
*これまでの「災害」という概念の多様化
災害というと、自然災害が真っ先に思い浮かぶと思います。以前から、災害とは何を含めるのかという議論もありました。新型コロナ感染症を経験して、さらに災害という概念が広がり、感染症のみならず、産業災害、原子力災害なども含めた防災対策が必要であるという認識も広まってきました。
2015年の国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組」の中で、「防災には、自然災害と人的災害、環境・産業・生物災害やリスクも視野に入れる必要がある」と書かれています。
まだ耳にすることは少ないかもしれませんが、「オールハザード型(全災害型)防災」というアプローチもあります。こうした概念は以前から存在していましたが、その重要性がますます議論されるようになってきました。重要なのは、こうした災害にすべて適応できる対策を考えるというよりは、むしろ最低限の共通点を見つけて、そのコアな部分を認識し、強化していくという点になります。例えば、早期警報の重要性、コミュニケーション能力の維持、災害時の指揮系統の明確化、サプライチェーンの管理など、どのような災害でも必要となる部分を特に強化していく必要があります。また、一つの災害が、さらなる災害を引き起こす可能性があること、また、その被害が広域にわたる(経済、社会などの様々な分野に被害が及ぶ)ことを理解しながら、将来の被害・リスク予測を行い、その上で防災対策を再検討することも重要といえます。

災害科学国際研究所 災害評価・低減研究部門 陸域地震学・火山学研究分野 准教授 福島洋先生 (災害科学国際研究所 災害評価・低減研究部門 陸域地震学・火山学研究分野 准教授 福島洋先生)

<3月6日>
*トンガの火山噴火について
本年(2022年)1月15日にトンガの海底火山で大規模な噴火がありました。すさまじい爆発で、噴煙の半径は250kmにもなりました。これは、九州全体がすっぽりと入ってしまうくらいの大きさです。また、高度30kmに達した噴煙の粒子が日光を遮り気候に影響を与える可能性も指摘されています。空振と連動した津波も発生し、日本を含め遠地でも被害が発生しました。
現代は多数の地球観測衛星や地上の精密機器で詳細なデータが録られている時代です。今回の噴火でも、衛星データから噴火前に年間数センチの速さで島が隆起していたことなどが明らかとなっています。豊富で精密な観測データをよく活用して、噴火メカニズムの解明や今後の推移のモニタリングなどを行っていくことが将来の災害を予測し適切に対応することにつながると考えられます。

<3月20日>
*2022年1月に発生した日向灘の地震(M6.6)について
本年(2022年)1月22日未明に、日向灘を震源地とするマグニチュード(M)6.6の地震がありました。日向灘はもともと地震活動が活発な地域で、M7程度の地震は過去に十数年から数十年に一度の割合で発生しています。この地域で知られている地震の最大規模はM7.6程度で、1968年にはM7.5の地震がありました。
日向灘は南海トラフ巨大地震の想定震源域に含まれています。今回の地震のマグニチュードがもしもM6.8以上だったとしたら、気象庁で調査が開始され、精査のうえM7.0以上だったということになると「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されていたことになります。現在、日本海溝・千島海溝沿いについても、この臨時情報と同様に後発の巨大地震に対する注意を促す仕組みの導入が検討されています。このような新たな情報発表の仕組みについても知ってもらい、地震への備えにうまく役立ててほしいと思います。

災害評価・低減研究部門 地震工学研究分野准教授 榎田竜太先生 (災害評価・低減研究部門 地震工学研究分野准教授 榎田竜太先生)

<2月6日>
*『地震工学』について
地震工学とは、地震によって社会に発生する被害・損失を低減させることを目指す工学の学問です。この地震工学において、私個人としては、地震による構造物の揺れを主な対象とした研究分野に取り組んでいます。この分野では、地震時に可能な限り構造物を壊さないこと、壊れてもどこが壊れているかがすぐわかること、破壊個所の修復ができるだけ早く簡便に行えること、が目標とされています。この目標実現のもと、世界各国の研究者が、新たな装置や技術の開発を行っています。

<2月20日>
*『耐震実験』について
地震が発生しても可能な限り構造物を壊さないためには、どのような特徴の地震によって、また、どのぐらいの強さで、構造物が壊れるかを把握しておく必要があります。そのために、人工的に地震の揺れを再現できる『振動台』という装置を使った耐震実験が行われます。日本には、世界でも最高水準の振動台が多数あり、日本の地震工学研究を支え、地震に強い構造物の開発に非常に貢献しています。私の主要研究課題として、この振動台の高性能制御の研究にも取り組んでいます。

災害人文社会研究部門 災害文化アーカイブ研究分野准教授 蝦名裕一先生 (災害人文社会研究部門 災害文化アーカイブ研究分野准教授 蝦名裕一先生)

<1月2日>
*「歴史が導く災害科学の新展開Ⅳ―先人の疫病文化に学ぶ―」について
2020年より開始した「疫病退散プロジェクト」の成果報告として、2021年2月11日に「歴史が導く災害科学の新展開Ⅳ―先人の疫病文化に学ぶ―」をオンラインで開催しました。
このシンポジウムでは、疫病退散プロジェクトで収集した疫病文化の事例紹介、気仙郡における江戸時代の疫病流行をはじめ、辟邪絵などに描かれる牛頭天王や牛鬼の両面性について、また仙台市の牛頭天王を祭神とする神社の分布と明治期における牛頭天王信仰の排斥政策との関連性が報告されました。また、医学的な見地からは、人・動物の健康と環境保全の3要素で考えるOne-Healthという考え方が示されるとともに、感染症の収束は医療のみならず、流行時の社会状況に対する文化やライフスタイルの影響を改めて問い直す必要があることなどが述べられました。

<1月16日>
*「歴史が導く災害科学の新展開Ⅴ―文理融合による1611年慶長奥州地震津波の研究―」について
2021年12月4日、シンポジウム「歴史が導く災害科学の新展開Ⅴ―文理融合による1611年慶長奥州地震津波の研究―」を開催し、この10年に文系・理系それぞれの研究者が展開してきた慶長奥州地震津波の研究についての報告を行いました。
シンポジウムでは、新たに宮城県の多賀城市や北海道の胆振地域の海岸部でも、慶長奥州地震津波に対応する可能性がある津波堆積物が存在することが確認されました。また、岩沼市高大瀬遺跡から発見された津波堆積物について、地層に含まれる花粉の分析や、津波による砂層に、水田を開発した際の人馬の足跡が確認されたことから、改めて慶長奥州地震津波によるものである可能性が高いことが確認されました。こうした研究成果をもとに、改めて慶長奥州地震津波の規模を推定したところ、Mw8.8±0.1という結果となり、東日本大震災と近い規模の地震と考えられるということが報告されました。

東北大学大学院文学研究科 心理学研究室教授 阿部恒之先生 (東北大学大学院文学研究科 心理学研究室教授 阿部恒之先生)

<12月5日>
*災害心理のシンポジウム
今年の7月に、タイのチュラロンコン大学を中心として国際的な心理学のシンポジウムが開催されました。チュラロンコン大学と東北大は国際交流協定を結んでおり、このシンポジウムには、文学研究科心理学研究室の教員5名全員が参加しました。
私が参加したのは、“Behavioral Change and Lives in Time of Disasters"(災害時の行動と暮らしの変化)というセッション。東日本大震災における被災者のマナーについてお話させていただきました。このセッションの司会をしてくれたのが、私のところで博士課程を修了したチュラロンコン大学心理学部のジュターチップ先生でした。タイからリモート参加してシンポジウムにについて話してくれました。タイにおいても東日本大震災はいまだに関心を集めているようです。
2022年2月27日に開催されるシンポジウム「災害とこころの健康」では、災害対応職員、特別支援学校の児童・生徒、そして大事な家族を失った方々の心の問題に焦点を当てて議論する予定です。是非、ご参加下さい。
https://psych.or.jp/authorization/ninteinokaievent/

<12月19日>
*被災留学生の今
ジュターチップ先生は、タイのチュラロンコン大学出身です。卒業後、東北大学に留学し、文学研究科心理学研究室の大学院生となり、博士の学位を取得して、現在は母校のチュラロンコン大学の心理学部で講師をしています。今年の4月からは、東北大学大学院文学研究科心理学研究室の客員准教授を兼務しています。
東日本大震災を体験し、それを研究テーマにして博士となり、母校に凱旋したジュターチップ先生から、今回もリモート参加で、タイと日本の大学の違い、タイに戻って戸惑ったこと、現在の研究のテーマでなどをお話しいただきました。今後もタイと日本の架け橋として、活躍してほしいものです。

東北大学大学院医学系研究科 精神神経学分野(兼) 災害科学国際研究所 災害精神医学分野教授 富田 博秋先生 (東北大学大学院医学系研究科 精神神経学分野(兼) 災害科学国際研究所 災害精神医学分野教授 富田 博秋先生)

<11月7日>
*精神科医療機関での新型コロナウイルス感染症クラスター発生が示す課題
精神疾患は多くの人が罹り得るもので、一時期、入院を要することもあります。これまでに、全国で120病院以上の精神科病院で新型コロナウイルス感染症がクラスター発生しています。精神科医療に特有の複合する状況が重なってのことと考えられます。この中には簡単に解決できない問題もあるものの、改善可能な問題も少なからずあるように思われます。宮城県ではパンデミック発生後、早期から、精神科医療機関がオンライン会議等で具体的なコロナ対策を共有し、感染症対策の専門家と連携する体制が稼働し、課題に取り組んできています。皆様に安心して診療を受けていただくためにも、精神科医療機関の緊急時対策は重要案件で、オープンに相互や外部とのネットワークを活発にしていくことは重要と考えられます。

<11月21日>
*緊急事態下の行政職員の就労環境とメンタルヘルス
新型コロナウイルス感染症流行に際して、国や地方自治体で様々な対策の方針が立てられ、行政職員を中心に、対策の実施に取り組んできています。限られた人員体制で、難しい判断を要する膨大な量の業務をこなさざるを得ない状況は大きなストレスとなっています。一方、市民の方の、国や地方自治体がとる対策や各状況への対応への不満は往々にして窓口業務にあたる行政職員に向けられ、このことも大きなストレスとなります。同様のことは、東日本大震災等の自然災害の後にもみられます。緊急時の対策を有効に行うためにも、緊急時対応を含む行政職員の人的体制の改善と行政職員がおかれている状況への社会の認識、理解が広まることが望まれます。

東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻教授(兼)災害科学国際研究所 災害評価・低減研究部門教授 須賀利雄先生 (東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻教授(兼)災害科学国際研究所 災害評価・低減研究部門教授 須賀利雄先生)

<10月3日>
*「日本の気候変動」と防災
地球温暖化によって気候が変化し、豪雨や熱波などの極端な気象現象が頻発しています。この変化を正しく認識することは、気象災害に対する防災を考える上でとても重要です。そのための最も信頼できる情報源は、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が数年ごとに発表する評価報告書です。しかし、世界全体を対象とした報告書であるため、日本に関わる情報を容易には読み取れません。そこで、文部科学省と気象庁は協力して『日本の気候変動2020』を作成し、昨年12月に公表しました。この報告書は、国や地方公共団体、事業者等だけでなく、一般国民も対象としており、気象庁のウェブサイトから誰でも入手できます。極端な高温や豪雨、猛烈な台風の頻度が増しつつあること等をわかりやすく説明しています。ぜひ変化する気候を意識した防災に役立ててほしいと思います。

<10月17日>
*地球温暖化は海の温暖化
地球温暖化を気温の上昇とだけ捉えると、その影響を過小評価してしまいます。地球温暖化は、人間活動にともない大気中の温室効果ガスが増加して、地球が赤外線のかたちで宇宙に放出するエネルギーが減り、その分の熱エネルギーが地球に蓄えられている現象といえます。地球は過去約50年間に434 ZJ(ゼタジュール)のエネルギーを蓄えました。これを日本全体の2018年一年間のエネルギー消費量に換算すると約24000年分に相当します。その91%が海に溜まっていました。大気に溜まったのはわずか1%で、これが気温の上昇をもたらしました。海は、膨大な熱を吸収することで、気温上昇を大幅に和らげていたのです。しかし、海の温度の上昇にともない、海洋熱波と呼ばれる海水温の異常高温現象や極端なエルニーニョ現象等が頻繁に発生するようになり、気象災害のリスクが高まると予測されています。温度上昇による海水の膨張と氷床・氷河の融解により、海面水位が上昇して、極端な高潮の発生頻度も増すと予測されています。さらに、海の変化は生態系にも大きな影響を及ぼして食料供給を脅かすと予測されています。

災害科学国際研究所 災害医療国際協力学分野教授 江川新一先生 (災害科学国際研究所 災害医療国際協力学分野教授 江川新一先生)

<9月5日>
*「東日本大震災からのスタート:災害を考える51のアプローチ」の紹介
災害科学国際研究所は今年3月11日に「東日本大震災からのスタート:災害を考える51のアプローチ」を出版しました。東日本大震災を振り返り、若い世代の方々にも伝えたいと、どのようなことが起き、どのように災害科学、災害対応が進歩したのかをまとめた本です。第3部「東日本大震災によって進化した健康の科学」を中心に、災害からどのようにからだ、こころ、社会の健康を守ることができるのかについてお話しします。

<9月19日>
*病気(disease)と災害(disaster)のリスクを減らす共通点
病気(disease)と災害(disaster)はどちらもdisという否定形が最初につき、それぞれ「元気をなくすこと」、「(道標となる)星を見失うこと」などが語源です。どちらも人間にとっていやなことですが、病原体やハザードという危害を及ぼすものを少なくし、危害が及んだときの脆弱性を少なくし、予防、予知を含めた対応能力を向上させることで、その被害を少なくするリスク減少の共通した考え方についてご紹介します。

災害科学国際研究所 災害評価・低減研究部門准教授 森口周二先生 (災害科学国際研究所 災害評価・低減研究部門准教授 森口周二先生)

<8月1日>
*火山と斜面崩壊の関係
日本には多くの火山があり、そのお陰で温泉や日本の洗練された文化があります。長い年月の中で、その火山の活動によって岩ができたり、地面の表面に火山灰や軽石が堆積して土になったりしています。これらの火山性の土は豪雨と地震の両方に対して弱い特性があります。2016年の熊本地震、2018年の平成30年7月豪雨(西日本豪雨)北海道胆振東部地震、2019年の令和元年東日本台風、今年の2月に発生した福島県沖地震など、近年の豪雨や土砂災害でも、火山性の土や岩が土砂災害のリスクを高める結果になっています。現状のハザードマップには、細かい地質の影響までは含まれていませんが、将来的にはそれが可能となる技術やデータベースの発展が必要です。

<8月15日>
*キキクルの活用
キキクルは気象庁が提供しているリアルタイムの災害リスクマップで、特に豪雨災害に対するリスクを見ることができます。土砂災害、河川氾濫、洪水のリスクを5段階に色分けして日本地図の上で可視化してくれます。これらのマップは、前から気象庁のホームページにはあったのですが、2021年の3月からキキクルという名前になりました。名前はかわいいですが、豪雨災害に対して非常に有効な情報を提供してくれる頼れるシステムです。過去の大きな被害が発生した災害でも、そのリスクを非常に精度よく表現していることがわかっています。強めの雨が降ったら、自分の住んでいる地域でもキキクルを眺めると、災害を勉強する良い機会になると思います。

災害科学国際研究所 災害評価・低減研究部門 助教 橋本雅和先生 (災害科学国際研究所 災害評価・低減研究部門 助教 橋本雅和先生)

<7月4日>
*住民参加型の河川維持管理について
最近はバックウォーター現象という言葉が一般に浸透してきており、大きい川の支川での水害が多く報告されております。こうした"中小河川"を対象にした洪水ハザードマップも整備が進められており、ドローンを使った川のモニタリングをするなど、危険個所の「見える化」が進んでおります。
一方で、最近着目されているのが、住民参加型河川管理の重要性です。河川管理者は広く様々な情報をもらえる他、住民は河川災害の防災意識を高めることかできます。「見える化」と住民参加で防災力の高いコミュニティを一緒に作りませんか。

<7月18日>
*水害時の避難について 
災害対策基本法が改正されて、避難勧告が廃止、避難指示に一本化されました。水害は毎年発生しており、避難の重要性は高まるばかりです。昨年より新型コロナウイルス感染リスクも考慮しての避難が求められ、対応が難しくなってもいます。そんな中、ホテルや知人宅への早期の立ち退き避難の有効性が確認されています。平成三十年七月豪雨(西日本豪雨)、令和元年東日本台風(台風19号)ともに、水害リスクの高まりのピークは週末でした。もしもの時に身を寄せられる場所がないか、改めて確認をしていただきたいです。

災害科学国際研究所 2030国際防災アジェンダ推進オフィス教授 一般財団法人・世界防災フォーラム代表理事 災害統計グローバルセンター長 小野裕一先生) (災害科学国際研究所 2030国際防災アジェンダ推進オフィス教授 一般財団法人・世界防災フォーラム代表理事 災害統計グローバルセンター長 小野裕一先生)

<6月6日>
*World Bosai Walk Tohoku+10について① ~イントロ
コロナ禍で今年11月に予定しておりました第3回世界防災フォーラムは延期することとなりました。
本企画は、コロナ禍でも開催可能な屋外でのイベントになります。具体的には、「WALK」ということで、東日本大震災10年の節目である2021年秋に、福島から青森までの太平洋沿岸を1ヶ月余りかけて踏破し、その土地に住み復興に取り組む人々、災害の記憶を残し後世に伝えようとしている方々、これからその地の発展を担う若い力など、すべての人と連携し、その活動や経験を世界中に発信するものです。
海外においては、東日本大震災の記憶はその深刻な地震・津波・原発事故による被害に留まっており、10年を経て東北の人々がどのようにビルドバックベター(より良い復興)を遂げているのかについてほとんど知られていません。
忙しく復興に取り組んできた現場の方々にとっては、国内外への発信というのは日々の活動リストの上位に来るものではありませんでした。そこで、国内外の産・官・学・メディアや市民と繋がりを持つ私たちがメディアのような役割を果たし、東北の復興の様子を専門家の視点・コミュニティ内だけでなく、より個人・個別組織のヒストリーに着目する形で広く防災や東北の復興に関心を持つ国内外の方々に発信したいと思います。 

<6月20日>
*World Bosai Walk Tohoku+10について②~具体的な内容 
世界防災フォーラムで会議に付随してフィールドトリップとして行ってきた被災地見学を充実させた「WALK」という形式で、沿岸部の様子を丁寧に国内外に発信したいと考えています。また、震災遺構のみならず、東北で再生した飲食店や観光地などを紹介することで、風評被害を軽減する上でも適していると考えます。多くのウォークの参加者・視聴者が東北に関心を寄せ、訪問・支援する仕掛けを作り、最終的には東北で復興に取り組む方々の活動継続とその先にある次の災害での被害軽減に貢献したいと考えています。人数は1区間10人前後で歩くことを考えております。私も含めて事務局のスタッフ、学生ボランティア、地元の参加者、招待者、希望者などです。公募することも視野に入れておりますので、世界防災フォーラムのホームページ等をこれからチェックしていただければと思います。
目的を整理しますと、
1.「より良い復興」に取り組む個人や団体を紹介。観光資源も含めて准リアルタイムで発信する。
2.震災や復興の経験や教訓の継承にフォーカスし、その活動に取り組んでいる個人や団体を紹介し、災害関連ミュージアムの世界的なネットワークを作り発表する。
3.最先端の災害科学の研究成果の紹介や企業の開発した防災関連の製品、自治体やNPO等の取り組みを紹介する。
4.仙台市や陸前高田市等いくつかのポイントで小規模の交流イベントを行い、次世代の育成や交流を促進する。
ということになります。

東北大学大学院歯学研究科副研究科長 災害科学国際研究所教授 厚労省新型コロナ・クラスター対策班 小坂健先生 (東北大学大学院歯学研究科副研究科長 災害科学国際研究所教授 厚労省新型コロナ・クラスター対策班 小坂健先生)

<5月2日>
*新型コロナワクチンについて
新型コロナのワクチン接種が医療従事者に引き続き、高齢者も始まりました。
mRNAという新しいワクチンですが、高齢者の重症化予防に高い効果があることがわかっています。また感染を抑える可能性も指摘されています。副反応はありますが、今のところ、対応可能なものが中心ですので、正しく理解して、不安があれば主治医に相談してください。

<5月16日>
*新型コロナ後遺症について
新型コロナは感染しても退院すれば良いというわけではありません。海外のデータでは、感染者の5人に1人が5週間後も症状が持続し、10人に1人が12週間以上続くと推定されています。職場や学校に行けないような全身倦怠感、息切れ、関節痛、胸痛などに加えて、味覚・嗅覚障害なども起きています。またこのことで、人知れず、悩んでいる方も少なくありません。医療従事者も含めて、我々が理解を深め、支援につなげる必要があります。

災害科学国際研究所 地域・都市再生研究部門 国際防災戦略研究分野准教授 泉貴子先生 (災害科学国際研究所 地域・都市再生研究部門 国際防災戦略研究分野准教授 泉貴子先生)

<4月4日>
*新型コロナ感染(COVID-19)への大学の対応・取り組み
昨年から続く新型コロナ感染症(COVID-19)の大学への影響として大きな点が2つありました。まず一つ目は、教育・授業のオンライン化、二つ目は財政的な問題です。授業がオンライ化されたことにより、教員・学生ともにこれまであまり使用しなかったZoomなどのプラットフォームに慣れる必要があったこと、インターネットへの接続が必須となったこと、また、学生にとっては友人、仲間、教員と会える機会がなくなり、議論しつつ学ぶこともできなくなりました。また、留学生からの授業料などによる収入が激減し、大学の経営に大きな影響を与えました。
今回、大学のCOVID-19 への対応について、アジアの大学にアンケート調査を実施し、51大学(22か国)から回答を得ました。回答の中で、明らかになった課題としては、事業継続計画(BCP)などの計画はあるが、それに沿った事前の訓練などが実施されているところは40%程度にとどまっていました。また、感染症などを含めた防災対策は取られていたなかった、また不十分だったという答えが70%以上ありました。今後、改善すべき点としては、まずは自然災害のみならず、感染症を含むその他の災害を考慮したBCPを作成し、実際に訓練を行い、定期的に中身を見直し、教育システムをオンラインと対面の両方が可能となるようにすること、学生や留学生への支援、感染症に加え化学災害など自然災害以外の災害についての備えについても検討することなどがあげられます。そのためには、様々な専門家がこれまで以上に連携して対策を検討していかなければならず、ますます横のつながりやネットワークの重要性が増すことになります。

<4月18日>
*東日本大震災の経験を踏まえた日本からの発信
東日本大震災10年を迎え、インフラなどのハード面での復興はおおよそ終わったが、これで復興が終わりを迎えるわけではなく生活や心の復興はこれからも続くというご意見を至る所で伺いました。大震災の対応・復興などの経験は、日本のみならず海外の防災対策や計画にもとても貴重な教訓となります。
先日、インドネシア政府の防災関係者を対象としたオンライン研修に講師として参加しました。その際に、みなさん東日本大震災の経験や日本の防災から学びたいとおっしゃっていました。その中でも以下の点に関心があるとのことでした。教訓を将来へ伝えるにはどうすればよいか、防災には多くの機関や人々が参加することが重要だがどのようにすれば協力が得られるか、住民参加を高めるにはどうすべきか、地域のレジリエンス評価をどのように行うべきか、防潮堤や多重防御などの効果はどうか、被災した方々の生活再建はどのように行われたのか、住居移転はどのように行われたか、データ収集・管理はどのように行われ、それらは防災対策に用いられているかなどです。ここから、東日本大震災の経験が海外の防災対策に大変貴重な教訓となることがおわかりいただけるかと思います。こうした発信を今後、どのように行っていくのか大変重要になります。ただ、日本とは全く異なる防災への考え方や対応もありますので、その違いや限界を理解することも重要です。例えば、マレーシアではハザードマップは住民には公開されておらず、住民たちの手で作る必要があります。現在、そうした試みをJICAから支援を受けて災害研とマレーシア工科大学との間で行っています。ここにも日本の学術の経験が生かされています。今後、防災対策は国レベルではなくグローバルにいかに技術、知識、経験を共有できるかが鍵となるでしょう。

災害科学国際研究所 災害理学研究部門 海底地殻変動研究分野准教授 福島洋先生 (災害科学国際研究所 災害理学研究部門 海底地殻変動研究分野准教授 福島洋先生)

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震から10年になります。2回にわたり、この超巨大地震の発生する前から発生後10年が経った現在までに地下で起こっていたと考えられることについて、研究の進展を紹介しつつ振り返りたいと思います。

<3月7日>
*2011年3月11日前に起こっていたこと
これまでの津波堆積物などの調査・検討により、東北地方太平洋沖では、過去3000年の間に2011年に起きたものと同様の超巨大地震が5回起こったと認定されるに至りました。また、近年のGNSS(GPS)や明治以来の測量データは、100年以上の期間で東北地方太平洋沖のプレート境界が広い範囲で固着していたという考えと矛盾しないことがわかりました。これらは、長期間にわたるプレート境界の固着と超巨大地震の発生が500〜600年周期で繰り返してきたと考えれば理解できます。
2008年頃からは、地殻変動や地震活動の様子に特徴の変化が見えていました。2011年2月には、本震の震源の北側でゆっくりすべり(揺れを起こさない程ゆっくりした速さでの断層のすべり)の発生がありました。2011年3月9日にはM7.3の「前震」が発生し、特異的に大きな余効すべり(震源域周辺で受動的に発生するゆっくりすべり)を起こしたあと、3月11日の地震発生に至りました。これら、2008年頃から見られた一連の現象は、後から見れば超巨大地震発生の兆候とも考えられるものです。特にゆっくりすべりと巨大地震との関係については、国内外で研究が活発に進められており、今後、東北で得られたデータも繰り返し用いられ、因果関係が明らかにされていくことと思います。

<3月21日>
*2011年3月11日の地震とその後に起こったこと
2011年3月11日の地震は、宮城県から茨城県にわたる範囲の沖合い下のプレート境界断層のすべり(破壊)により発生しましたが、すべり量は宮城県沖の海溝寄りで特に大きく(最大で50m以上)、これにより海底が大きく持ち上げられ、巨大津波が発生しました。まだこの地震・津波に関する未解明な点は残っており、例えば、津波の観測データから示唆される岩手県沖の津波発生源については、まだよくわかっていません。
10年経った現在、地殻活動はだいぶ落ち着いてはきましたが、まだその影響は残っています。2011年の超巨大地震で大きくすべった断層面上の領域の周辺を中心に、余震が未だ発生しています。宮城県沖の陸寄りで繰り返し発生してきた「宮城県沖地震」(M7.1~7.4)の破壊域は、2011年の超巨大地震でも破壊されましたが、今後は超巨大地震の影響により発生間隔が短くなることを示唆する研究結果もあり、注意が必要です。
東日本大震災を受けて北海道沖から千葉県の房総半島沖までの海底に設置された日本海溝海底地震津波観測網(S-net)は、運用が開始されており、海域で発生する地震に対する緊急地震速報や津波情報への利用の体制が整うとともに、貴重なデータとして地震研究に役立てられています。

災害科学国際研究所 災害復興実践学分野助教 定池祐季先生 (災害科学国際研究所 災害復興実践学分野助教 定池祐季先生)

<2月7日>
*コロナ禍でのつながり
2018年9月6日に発生した、北海道胆振東部地震から2年5ヶ月。厚真町の仮設住宅は入居期限を終え、多くの方が新居や次の仮住まいなどに引っ越しをしました。
昨年からの新型コロナウイルス感染拡大を受けて、住民同士が顔を合わせる機会が少なくなる中、仮設住宅や災害公営住宅などでもその影響を受けました。町外のボランティアによる交流イベントができなくなり、町内のボランティアによる体操教室も、狭い談話室では密になるためできなくなりました。
そんな中、厚真町社会福祉協議会は、様々なつながり方の工夫を始めました。災害FMでラジオ体操を流してもらい、「同じ時間に離れた場所で同じ運動をする」ようにしました。外が暖かくなってきた5月には、仮設住宅の外で距離を保ちながらの「縁側体操」を始めました。石巻から贈られ、町内で栽培されていたヒマワリのタネを全戸配布して、夏には町内各地でヒマワリが咲いた様子を写真に撮り、生活支援相談員のお便りや、災害ボランティアセンターのFacebookに載せたりしました。
災害公営住宅入居後、住民の顔合わせ会ができない中で、「自己紹介メモ」を配布・回収して「寄せ書き風」にしたものを配るなど、会いにくい中で繋がるための工夫が続いています。

<2月21日>
*災害FMの閉局
胆振東部地震の被災地では、むかわ町と厚真町で災害FMが開局しました。むかわ町は1ヶ月程度で閉局したのですが、厚真町では約1400回の放送を経て、昨年12月29日夕方の放送を持って終了しました。
厚真町の災害FMが開局したのは地震発生から2週間後の9月20日でした。スタジオは役場庁舎の中。ふだんあまり使われない奥まった場所で、放送中に職員が出入りすることもあります。
主なパーソナリティは役場職員。台風が接近したり、大きな余震が発生したときには、緊急放送をしました。町内の学校が休校しているときには、教育委員会職員が子ども向けプログラムを始めたり、社会福祉協議会職員が平日昼間30分の情報発信をしたり、町の中学生が特別番組をするなどの取り組みがありました。また、この災害FMには各地からの応援がありました。北海道のコミュニティFMからは機材などの支援、女川FMからは音源(曲)の提供などさまざまな支援を受けました。

災害科学国際研究所 災害文化研究分野准教授 蝦名裕一先生 (災害科学国際研究所 災害文化研究分野准教授 蝦名裕一先生)

<1月3日>
*新型コロナウイルス流行と歴史の中の疫病
現在、日本での新型コロナウイルスは流行の第三波を迎えたとされ、宮城県でも連日感染者が報告されています。最近はようやくワクチンの開発に向けた動きが報告されていますが、今回のコロナウイルスの流行は、現代医学の恩恵に守られていた我々の社会生活を大きく脅かしました。4月の緊急事態宣言をはじめ、飲食業をはじめとした多くの経済活動に様々な制限がかかる一方で、アマビエの注目などは、疫病退散を願う人々の心理のあらわれとみることができるでしょう。
ただ、疫病と人々の歴史について考えてみると、現代のような医療技術が無かった時代、疫病、すなわち感染症は人間社会の最も身近な脅威として存在していたのです。例えば、奈良の大仏の建立や京都の祇園祭の発症は、当時の災害や疫病の流行を鎮めることが目的とされていました。江戸時代は、天然痘や麻疹の流行がみられますが、こうした病気を神格化し、疱瘡神や麻疹神として祀る神事や行事が定着していきます。また、麻疹が流行した時期の江戸では、感染拡大の原因とされた遊郭や魚屋・八百屋、風呂屋・床屋などが失業する一方で、生薬や疫病に効果があるとされた食べ物の価格が高騰、養生書やはしか絵が流行し、寺社は御札を販売して大きな利益をあげました。
仙台藩では、安永年間に気仙郡、今の岩手県大船渡市・陸前高田市で疫病が流行し、3000人ほどが亡くなったという事がありました。この時の例で、仙台藩は現地に医師を派遣するとともに、松島瑞巌寺で疫病退散の祈祷をおこない、住民にその御札を配布しました。また、住民達は病気による死者があった家に対して、たとえ近所でも親類でも近づかないようにと、自主的に感染拡大を防ぐようにしていました。ここに、現代のような医療が存在しない時代において、人々が当時の医療はもちろん、信仰の力や自主的な生活スタイルの変化といった形で、疫病と共存していた様子をみる事ができます。

<1月17日>
*疫病退散プロジェクト
新型コロナウイルスの流行を受けて、災害科学国際研究所では「疫病退散プロジェクト」を開始しました。このプロジェクトの特徴は、文系と医学系の研究者が連携した学際研究という点と、疫病に関する様々な情報を一般の方々と連携したシチズンサイエンス型の研究という特徴があります。 現代のような医療がなかった時代、人々は独自の民間療法や信仰の力などによって疫病と共存していました。しかし、疫病を直す医療技術があらわれると、直接的な治療に関わらないものは俗信・迷信として扱われ、忘れられてきました。しかし、それらの信仰や生活の知恵は、その時代において流行する疫病を克服し、共生していくための手段として機能していたはずです。今日のコロナウイルスのように、医療技術が確立しない段階での人間・社会と疫病の関係性について、先人達の生活を歴史学だけでなく、医学の観点からも再評価しようというのがプロジェクトの特徴のひとつです。 また、探してみると疫病にまつわる様々な情報が現在の生活の中に見いだすことができます。例えば疫病退散の御利益があるとされる牛頭天王を祭った石碑や神社は、宮城県内にも多数存在します。特に牛頭天王を祭った神社の氏子さんの間では、最近までキュウリを食べない風習が残っていたそうです。また、赤い色の郷土玩具、福島県の赤べこなども、そもそもは疫病除けの意味をもつものでした。こうした様々な疫病にまつわる情報、いわゆる疫病文化について、一般の方々から情報の提供をいただくため、現在、ホームページに投稿フォームを設置しています。 また、ホームページを通じて、一般の方々でも可能な石碑の撮影方法「ひかり拓本」といった技術について紹介し、我々研究者だけでなく、是非一般の方々にも身近な石碑に関心を持っていただき、研究者と市民の連携したシチズンサイエンス型でこの疫病文化研究を進めていきたいと考えています。
(災害文化研究分野ホームページhttps://www.saigaibunka.jp「東北大学・疫病退散プロジェクト」で検索)

東北大学大学院文学研究科 心理学研究室教授 阿部恒之先生 (東北大学大学院文学研究科 心理学研究室教授 阿部恒之先生)

<12月6日>
 *公開シンポジウム~災害文化
12月19日の13時より、公益財団法人 日本心理学会認定心理士の会 東北支部会主催のシンポジウム「災害の記憶を未来に活かすために―心理学と情報学の観点から」が開催されます。Zoomを使ったインターネットシンポジウムですので、どなたでも視聴いただけます。

今村先生も、『デジタルアーカイブ・ベーシックス:災害記録を未来に活かす』という書籍を監修されているように、災害の記憶・記録は、将来の減災のために欠かせない資源です。東日本大震災の記憶・記録の研究に携わった3名の災害研関係の研究者が話題を提供し、文学研究科宗教学の木村先生が指定討論を行います。
私からは、「災害の記憶~災害碑・災害文化・シチズンサイエンス~」というお話をさせていただきます。要点は、「Disasters occur when hazards meet vulnerability:災害は、危機が脆弱性と出会うことで起こる」ということです。日が落ちて暗くなるという毎日の小さな危機は、電灯を備えて対策をしています。誰も災害とは思っていません。地震も台風も、同様に、備えがあれば災害にはならないのです。この備えが、災害文化です。過去、何回かお話したことですが、改めて、その大切さをお話ししたいと思います。

<12月20日>
 *福島県の台風災害~新しい災害文化
2019年の台風19号では、多くの人命を失いました。32名の犠牲者を出した福島県では、「福島県台風第19号等に関する災害対応検証委員会」を立ち上げ、私も今年の1月から委員として参加しています。
この32名の犠牲者のうち、15名が1階でお亡くなりになっています。このうち4名は、避難の呼びかけに応じずに亡くなられています。また、2階に上がっていれば助かった方もいます。2階の家族が気づかないまま、1階で寝ていて命を失った方もいます。台風は、地震と違って予測可能な災害であり、早めの水平避難、いざとなったら垂直避難で命は助かります。自分が逃げないことで、避難を呼びかけてくれる人を引き留めてしまい、危険をもたらします。今年の台風10号では、ホテル避難が注目されました。「難を避ける」という観点からは、もう一つの選択肢です。災害文化は、時代に合わせて発展させるものだと思います。

東北大学大学院医学系研究科 精神神経学分野(兼) 災害科学国際研究所 災害精神医学分野教授 富田 博秋先生 (東北大学大学院医学系研究科 精神神経学分野(兼) 災害科学国際研究所 災害精神医学分野教授 富田 博秋先生)

<11月1日>
 *新型コロナウイルス感染症流行下の心の健康
新型コロナウイルス感染症がもたらす恐怖や不安、就労・就学や対人交流を含む日常生活への影響と事態の進展予測の困難さは人々に強いストレスをもたらし、平常よりも多くの人が抑うつ、不眠をはじめとするストレス関連症状に悩まされていることが報告されています。新型コロナウイルス感染症に有効な予防法や治療法が開発・普及され、経済・雇用を含めた生活が安定することが待たれますが、このコロナ禍の状況下で心の健康を保つためのヒントについてお話しします。

<11月15日>
*東日本大震災後10年とコロナ禍がもたらす災害メンタルヘルスへの教訓
私達は東日本大震災から10年が経とうとしている時にコロナ禍という違うタイプの大災害に見舞われました。心の健康の側面から、未知の感染症の流行も含めた様々な災害に備えておく必要があることは以前からわかっていましたが、多様な災害に備えることの困難さを改めて認識させられました。感染症の本態やコロナ禍の収束への道筋も不透明ですが、感染症が心の健康に及ぼす影響の実態を把握することや、有効な方策を立てることも難しく、精神医療現場の感染症対策にも手探りで取り組んでいるところです。コロナ禍や次に到来する可能性のある新たな災害に備え、これまで以上に関係者が柔軟に連携して課題解決に取り組む体制を強化する必要性を感じています。

災害科学国際研究所 災害対応ロボティクス研究分野教授 田所諭先生 (災害科学国際研究所 災害対応ロボティクス研究分野教授 田所諭先生)

<10月4日>
 *新型コロナに対応するロボット
ロボットは、災害時に人では困難な活動を肩代わりして、リスクを低減することが、最も重要な役割です。新型コロナに取り組む世界の現場では、感染のリスクを抑えるため、ロボットの適用が進められています。部屋を消毒するために、薬剤を散布し、紫外線を照射するロボットが使われ、ウィルスを含む飛沫が漂う危険な空間に人間が入ることなく、遠隔操作や自動運転で作業をしています。薬や食事を運ぶロボットは、看護師の労力と感染のリスクを低減するために役立っています。検査機関では、ロボットを含む自動機械によって、短時間に大量の検体を処理し、迅速な診断を可能にしています。鼻腔から検体を採取したり、予防接種を行うロボットも研究され、将来は血圧を測るのと同じくらい簡便に、検査や予防接種が可能になると期待されています。

<10月18日>
*福島ロボットテストフィールド
福島県南相馬市に、福島ロボットテストフィールドがオープンし、9月12日に復興大臣を初めとする来賓とともに、開所式が行われました。ここには、屋内外の様々な環境下でロボットを動かしながら試験ができるフィールドや装置が用意されています。水没した市街地、土砂崩落現場、瓦礫などの災害模擬現場、橋梁やプラントなどの点検が重要なインフラ模擬施設では、ドローンやロボットを災害現場の状況に近い厳しい条件で動かし、性能や耐久性などを確かめることができます。ネットの中で安全にドローンの性能を試験できる場所や、滑走路まで用意されています。温度、塵埃、振動、防水、耐風、防爆、電磁波など、基本的な技術試験を行うこともできます。この施設を活用することによって被災地に新しい産業を育て、雇用を生み、復興に寄与することが、その目的です。

災害科学国際研究所 災害医療国際協力学分野教授 江川新一先生 (災害科学国際研究所 災害医療国際協力学分野教授 江川新一先生)

<9月6日>
 *新型コロナウイルスの現状
新型コロナウイルス感染症は、緊急事態宣言の解消後に再び流行していますが、感染の拡大と医療崩壊を防ぐために、三密をさけること、マスク、手洗いをすることは誰にでもできて効果の高い対策です。治療法は少しずつ改善してきていますが、重症患者が増えると病院の機能が制限され、ベッド、医療従事者、人工呼吸器などの医療資源が不足します。事態の収束にはやはり感染防止が最も有効なのです。

<9月20日>
*災害医療人材育成の国際協力
災害では、人間の生活や健康に影響を与えるすべてのものをハザードと呼びます。地震・津波・台風などの自然ハザードに加えて、新型コロナウイルスなどの生物学的ハザード、化学物質や放射能などの特殊ハザードによって広範囲に被害が及ぶものは災害です。災害医療の人材育成は、想定外のことが発生するどのような災害にも対応できるような知識と柔軟さをもつ人材を育成することが必要で、日本災害医学会、世界災害医学会、WHOなどが協力して推進しています。

災害科学国際研究所 計算安全工学研究分野 森口周二先生 (災害科学国際研究所 計算安全工学研究分野准教授 森口周二先生)

<8月2日>
 *令和2年7月豪雨について
2020年7月3日から中旬にかけて、九州地方と本州の一部で豪雨災害が発生しました。熊本県の球磨川の氾濫に始まり、筑後川、大分川と九州で一級河川の氾濫が続き、岐阜県の飛騨川や島根県の江の川などの一級河川でも氾濫が生じました。また、熊本県の芦北町(あしきたまち)や津奈木町(つなぎまち)では死者を伴う土砂災害も発生しました。この災害は激甚災害として指定され、令和2年7月豪雨と名付けられました。毎年6~7月にかけての梅雨前線の停滞によって日本全国の豪雨災害リスクが高まります。この時期には、過去にも大きな豪雨災害が発生しています。今一度、梅雨時期の日本における豪雨のリスクを再認識してほしいと思います。

<8月16日>
*令和元年東日本台風(台風第19号)の振り返り
令和元年東日本台風(2019年台風第19号)は、関東・北陸・東北地方で河川氾濫と土砂災害が多数発生し、激甚災害にも指定されました。宮城県内では、特に丸森町で河川氾濫と土砂災害が多発し、山間部ではそれらが同時に発生する二重苦の被害もありました。丸森町を含む阿武隈山地には花崗岩が分布しており、それが風化した「まさ土」は土砂災害リスクが高い土になります。一方で、大きな被害を受けながらも死者ゼロとなった地域もあり、強い自助・共助によるものと思われます。昨今では、シミュレーションによる土砂災害の予測も高度化されてきましたが、地質や地下構造などの入力となるデータの情報整備をより加速化させる必要があると感じています。

災害科学国際研究所 災害リスク研究部門 橋本雅和先生 (災害科学国際研究所 災害リスク研究部門 橋本雅和先生)

<7月5日>
 *氾濫水は綺麗か?安全か?
一昨年の西日本豪雨、昨年の台風19号と日本は二年連続で河川氾濫による甚大な被害を受けました。河川氾濫による浸水域と浸水深は洪水ハザードマップで確認できますが、皆さんは氾濫水の水質について考えたことはあるでしょうか?川の上流にどんな施設があるか、同じ氾濫域にどんな建物があるか知っていますか?昨年の台風19号では郡山のメッキ工場から有害物質が、佐賀豪雨では鉄工場から工業油、一昨年の西日本豪雨では、流出ではありませんでしたが、岡山県総社市のアルミ工場で水蒸気爆発がありました。「観測史上初の降雨量」や「想定外の浸水」はいろいろな場所で言われていることです。万が一、浸水に出くわした時、「ただの水」と甘く見ないで、接触する際には用心深くなりましょう。

<7月19日>
*複合災害の想定と避難
コロナ禍での水害時にどう避難するかについて、さまざまな自治体や研究機関が注意喚起を促しています。避難所に行く際に、マスクや体温計を所持するなど、その対策は多岐にわたりますが、共通して大切なことは、事前に想定して早めに行動を起こすことです。今一度、洪水ハザードマップを確認して、ご自宅がどれくらい浸水する可能性があるのか確認してください。水害リスクが高まってから急に避難を強いられたりすると、人が一箇所に集まるなどして、三密を避けられない状況が生まれます。余裕のない状況は体力も奪います。先手をうって、余裕をもった避難を心がけていただきたいです。

災害科学国際研究所 社会連携オフィス教授 一般財団法人・世界防災フォーラム代表理事 小野裕一先生 (災害科学国際研究所 社会連携オフィス教授 一般財団法人・世界防災フォーラム代表理事 小野裕一先生)

<6月7日>
 *第2回世界防災フォーラム
2019年11月9~12日に第2回世界防災フォーラムが仙台国際センターと東北大学萩ホールで開催されました。国際機関をはじめとして世界中から産官学民メディア等の防災専門家が集い、防災の解決策を探り共有するこのフォーラムは、東日本大震災からの教訓も紡ぎ出し、後世の人々や世界の人々に伝えて行く場でもあります。今回は、世界中から1000名近い参加者が集い、防災の具体的なソリューションについて議論した一方で、前日祭では東北の文化芸能も披露していただきました。この会議の模様と成果についてハイライトいたします。

<6月21日>
*被災体験を後世にどう繋ぐか
災害の被災体験を次世代や被災地域以外にどのように伝えていくかは大きな課題です。世界防災フォーラムでは、世界中の防災関連の博物館の緩やかなネットワークを作る仕事に着手しました。例として、磐梯山噴火記念館でのユニークな取り組みを紹介します。1888年の水蒸気爆発で多くの死者を出した会津磐梯山の火山噴火を直接経験した人はもう一人もいません。ではどのように語り継いでいるのでしょうか。ご紹介します。

災害科学国際研究所 災害感染症学分野教授 東北大学病院 感染対策委員長 児玉栄一先生 (災害科学国際研究所 災害感染症学分野教授 東北大学病院 感染対策委員長 児玉栄一先生)

<5月3日>
 *感染予防のABC
中国の武漢に端を発した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、グローバル化の影響もあり、瞬く間に全世界に広がりました(パンデミック)。仙台においても緊急事態宣言、外出自粛要請が出されています。ワクチンも治療薬もまだなく、重症化の危険性もあるやっかいな感染症です。しかし、手洗いをする、マスクを着ける、3密を避ける、できるだけ出歩かない、といった当たり前のことを馬鹿にせず、ちゃんと行うことで、予防できます。日本語の頭文字をとった「感染予防のABC」であなたの健康を守りましょう。

<5月17日>
 *気を緩めずに、感染対策を
最近、感染者の数が抑え込まれてきている新型コロナウイルスですが、いまだ第一波にすぎません。最初の感染拡大を起こした中国でも再度感染が広がってきています。私たちの生活のためにも、様子を見ながら少しずつ自粛を緩めることになりますが、油断は禁物です。今後、ワクチンや治療薬が開発されていきますが、通常は実用化に数年の期間を要します。レムデシビルやアビガンのように既に他の治療薬として使われているものでも、ようやく認可されたばかりです。引き続き、手洗いをする、マスクを着ける、3密を避ける、できるだけ出歩かない、といった当たり前のことを馬鹿にせず、ちゃんと行う、日本語の頭文字をとった「感染予防のABC」であなたの健康を守りましょう。

災害科学国際研究所 地域・都市再生研究部門 国際防災戦略研究分野准教授 泉貴子先生 (災害科学国際研究所 地域・都市再生研究部門 国際防災戦略研究分野准教授 泉貴子先生)

<4月5日>
 *大学の防災への取り組み
2020年2月にAPRU(環太平洋大学協会)マルチハザードプログラムの活動の一環として、第3回キャンパスセーフティワークショップを開催しました。あいにく新型コロナウィルス感染拡大の影響でキャンセルも相次ぎましたが、ワークショップには、アメリカ、マレーシア、インドネシア、台湾、香港、中国など8カ国から16名が参加しました。ワークショップでは、これまで自然災害を主な対象としていましたが、今回は大学における「人的災害・複合災害」のリスクや防災対策について議論することになりました。人的・複合災害の中には、自然災害起因の産業事故などもあてはまります。この分野は、今後、気候変動などの影響で洪水や台風などの災害も増加すると考えられていることから、非常に重要となってきます。まずは、将来のリスクについて自然災害・人的災害の両方の場合を理解すること、さらに、その両方のリスクを念頭において準備・計画をしておくことが重要です。
東日本大震災により、福島の原発事故を経験しましたし、これまでこうした自然災害起因の産業事故は、幾度も発生してきました。日本でも2018年の西日本豪雨によって発生したアルミニウム工場での水蒸気爆発やLPガスボンベの流出などが起こっています。しかしながら、日本でもこの概念はまだ新しく、今後、自然災害の研究と産業事故の研究の間のギャップを埋めるための調査研究が進むことが期待されています。そのためには、企業、政府、学術など様々な機関や組織の連携がより一層必要とされています。さらに、現在流行している新型コロナウィルス感染のようなパンデミックも災害の一つとして、今後は防災としての観点から、将来の様々なリスクにどのように備えるべきか、その議論はあらゆる分野に広がっています。

<4月19日>
 *仙台防災枠組と気候変動
2015年3月に仙台で国連防災世界会議が開催されてから、5年が経ちました。この会議の成果物として採択されたのが「防災仙台枠組」です。2030年までに特に力を入れるべき4つの優先行動を示し、各国がはっきりとした目標を持って防災能力向上を行うための指針となりました。「仙台防災枠組」の前には、2005年に神戸市で開催された国連防災世界会議にて採択された「兵庫行動枠組」がありましたが、「仙台防災枠組」では、さらに強調・促進するべき行動が記されています。まずは、科学技術の導入、こちらは防災イノベーションとしても積極的にとりあげられています。また、様々な分野とのさらなる連携協力、例えば、医療・公衆衛生、ジェンダー、気候変動など、防災を災害分野の研究や活動ととらえるのではなく、より幅広い視点から考えようとするものです。
特に、今年に入って気候変動の問題が大変注目されています。パリ協定のもと、二酸化炭素を減らすこと、また、その適応策についても議論されています。気候変動により、台風、洪水、干ばつなどの気象災害が増加すると考えられています。そうした観点から、気候変動を抑えることは、災害の発生数とその被害を減少させることにも繋がります。そのためには、今後、地球温暖化の自然災害との関連性、温暖化を抑えるために私たちには何ができるのかなどについても、議論の場を広げ、知識を増やしていくことが重要です。

災害科学国際研究所 災害理学研究部門 海底地殻変動研究分野 福島洋先生 (災害科学国際研究所 災害理学研究部門 海底地殻変動研究分野 福島洋先生)

<3月1日>
 *変動地球共生学卓越大学院プログラム
「卓越大学院プログラム」は、文部科学省が2018年度から開始した大学院教育プログラム事業です。2019年度に、東北大学の「変動地球共生学卓越大学院プログラム」が採択され、2020年度からプログラム生の受け入れが予定されています。東北大学では、大学レベルで「災害科学」を特に推進すべき柱のひとつと掲げて取り組んでいますが、この卓越大学院プログラムでは、災害科学を軸とする分野の人材育成をすることになります。
 21世紀は「知識基盤社会」と言われており、他の先進国や新興国では、博士号を持つ人材の育成が強化されています。ところが日本では、逆に博士を目指す学生が減少しており、「科学技術立国」の基盤がゆらいでいます。こうなってしまっている背景としては、大学院生の経済的負担が大きいという問題と、博士号を持つ人の活躍の場が限られているという問題があります。変動地球共生学卓越大学院プログラムでは、産業界や国際的な機関などと連携し、この二つの問題を解決し、日本が再び活力を取り戻せるための仕組みづくりに貢献することも目指しています。
(ウェブサイト:https://www.syde.tohoku.ac.jp

<3月15日>
 *大学の国際化と国際貢献
東北大学災害科学国際研究所は、「国際」と名のつく通り、国内だけでなく、国外の大学や研究機関と密接に連携し、海外の巨大災害の被害軽減へ向けた研究を推進しています。東北大学全体をみても、英語での授業の充実化や教員の海外大学への派遣・海外研究者の受け入れなどの国際化が進められています。いまや、世界最先端の研究を推進していくために国際化は必須の条件です。
一方、21世紀に入ってからは、「社会貢献」が大学の大きな役割として捉えられるようになりました。災害科学国際研究所は、社会貢献という観点からは、主に東日本大震災の被災地の復興と開発途上国の災害リスク軽減に力を入れて取り組んでいます。国際的な災害リスク軽減の取り組みとしては、2015年に国連で採択された「仙台防災枠組2015-2030」がありますが、東北大学では、国際協力機構(JICA)と連携して、仙台防災枠組の推進のために開発途上国の防災関連機関の職員を大学院の留学生として受け入れています。国のために働きたいと強い意欲を持っている彼ら・彼女らの指導を担当することは、やりがいがあるものです。

災害科学国際研究所 災害復興実践学分野助教 定池祐季先生 (災害科学国際研究所 災害復興実践学分野助教 定池祐季先生)

<2月2日>
 *胆振東部地震発生から2回目の冬を迎えて
2018年9月6日に発生した、北海道胆振東部地震から1年5ヶ月。厚真町の仮設住宅では、夏には畑を作ったり、お茶会をしたりして広がった、新たなつながりも今後も保ちたいという声も聞こえています。その一方で、仮設住宅の入居期限2年では、自らの再建が間に合わないという不安の声も依然として聞こえます。
町内では、新しい取り組みも始まっています。子ども達のケアについては、厚真町が昨年11月に協議会を発足させ、これまでの取り組みに継続性を持たせようとしています。また、昨年秋からは30代が中心になり、「イチカラ」という名の交流の場づくりが進められています。クラウドファンディングを活用し、2月オープンを目指して街の中心部の空き店舗を改築しています。

<2月16日>
 *支援のバトン
 2018年に発生した北海道胆振東部地震の被災地厚真町では、土砂災害による大きな被害を受けました。石巻を拠点とするOPEN JAPANという団体が、重機ボランティア活動や住民の生活再建支援に至るまで様々な助言をしてくれました。
その、OPEN JAPANは、昨年10月に発生した台風19号の被災地、丸森町の支援に入っています。厚真町役場や社会福祉協議会、北海道の災害ボランティア達は、その情報を得て、丸森町に職員を派遣したり、資機材を送ったり、ボランティアとして通ったりしています。OPEN JAPANの方達から教わった、「恩送り」という被災地どうしの支援のバトンの渡し方。東北、北海道、そして東北へと、確かに繋がっています。

災害科学国際研究所 災害文化研究分野准教授 蝦名裕一先生 (災害科学国際研究所 災害文化研究分野准教授 蝦名裕一先生)

<1月5日>
 *台風19号への対応
昨年の台風19号では、宮城県でも各地で大きな被害を受けました。
私の研究室では、台風が通過した直後、台風に被災した地域の指定文化財をGoogleマップ上にマッピングして、文化財の被害の把握をはかりました。これは、東日本大震災の時に、津波の被害状況をマップ化して被災した古文書のレスキューにあたった経験に基づいています。最近はGoogleマップの機能も充実しており、趣味のマップなどを個人で作れるような機能が充実してきています。
災害後、私たちはこのマップをもとに、文化財や歴史資料の被災状況調査を行いました。特に被害が大きかった丸森町や大郷町はもちろん、登米市の東和町や津山町などで大きな被害がでておりました。今回、私たちは各地の災害ゴミ置き場をまわり、文化財や古文書が捨てられていないかを見ていきました。実際に、下張文書があった襖などが回収されました。こうした被災した古文書や歴史資料については、現在、災害科学国際研究所において処置を進めているところです。

<1月19日>
 *丸森町と伊達政宗の軍略
台風19号では、丸森町はもちろん、福島県の伊達市周辺など、阿武隈川の流域が河川氾濫で大きな被害をうけました。阿武隈川は昔から河川氾濫が多発する川なのですが、伊達政宗がこの阿武隈川を軍事作戦に使おうと言っていた話が言行録に残されています。
時は大坂夏の陣で豊臣氏が滅ぼされた翌年、徳川幕府は伊達政宗が謀反を企てているため、仙台伊達家を総攻撃するという計画がありました。これをうけて、伊達政宗は丸森を通る阿武隈川を埋め立て、福島盆地を水浸しにしてしまおうという計画を立てています。こうすれば、奥州街道を攻め上ってくる幕府の本隊を足止めできるというのです。
実際には、伊達政宗は素早く徳川家康の下に赴き、疑いを晴らしたので、幕府の総攻撃はありませんでした。ただ、江戸時代に書かれた『安永風土記』という書物には、現在の宮城県・福島県の県境に位置する「潜り岩」という大きな岩について、この周辺に植林をされた木々は、有事の際に阿武隈川を塞ぐためのものであったということが記されています。こうした伊達政宗の軍略には、兵器として自然を利用しようという視点、いわば自然の負の側面に対する視点というのを読み取れると思います。このような自然の両面を見ようというまなざしを、これからの災害研究や防災に活用できないか、今後も研究を深めていこうと考えています。

文学研究科心理学講座教授 阿部恒之先生 (東北大学大学院文学研究科 心理学講座教授 阿部恒之先生)

<12月1日>
 *NHKスペシャル「首都直下型地震」
首都直下型の震災の発生確率が高まっています。それに備えて、NHKで異例の8夜連続放送が行われます(12月1日~8日)。この番組に協力させていただきました。停電すると、タワーマンションの上のほうに住む人は、在宅避難が困難になります。避難所に行きたくても、東京は昼間、人口の割りに小学校などの避難所になるところが少なくて、受け入れが困難になります。このように、都会ならではの悪循環が多発します。様々な領域の専門家と一緒に知恵を絞って、この連鎖を樹形図の形につなげた「イベントツリー」を作成しました。都心の被災は、指示系統の麻痺という重大な問題も抱えており、事前の準備を一刻も早く進める必要があります。

<12月15日>
 *犯罪心理学に関する台湾講演
台湾政府にお招きいただき、犯罪心理学の講演を行ってきました。10月28日の新北市・中央警察大学に始まり、11月1日の嘉儀・国立中正大学における「2019年犯罪問題及び対策国際シンポジウム」までの5日間、講演漬けの毎日でした。講演のたびに、東日本大震災をはじめとする日本の災害に、台湾の皆さんからいただいた温かな支援に対する、心からの御礼を伝えさせていただきました。台湾法務部(法務省)の講演では、保護司長さんが感激して握手を求めてきました。そして、なんと法務部長(大臣)とも懇談させていただきました。台湾の多くの方々が、日本の災害に対して高い関心とお気遣いを示してくださっていることを、改めて心強く感じました。

災害科学国際研究所・災害精神医学分野教授 富田博秋先生 (災害科学国際研究所・災害精神医学分野教授 富田博秋先生)

<11月3日>
 *東日本大震災から8年半 被災地の心の健康の今
東北大学災害科学国際研究所は宮城県七ヶ浜町と一緒に東日本大震災発災以来、大規模半壊以上の家屋被災に遭われた方全員を対象に、毎年、健康調査を行なってきています。いまだに6~7人に一人は震災のことが苦痛や身体の反応を伴って思い出される心的外傷後ストレス反応の兆候を呈しておられます。町の保健士さんやこころのケアセンターと一緒に色々な形でサポートに取り組んでいますが、これからも、まだまだ見守りは必要な状況と考えています。

<11月17日>
 *災害後の心の健康に関する学術的取り組みの国際連携
東北大学災害科学国際研究所が行なってきている災害メンタルヘルスに関する知識は、日本国内だけでなく、国際会議や海外の被災地域で活動する現地の専門家との間でも共有を進めてきています。災害メンタルヘルス領域の国際連携には難しい面もありますが、最近では、海外の研究者との共同研究からも成果が出てきています。この度、世界保健機構が健康と減災に関する研究ネットワークを立ち上げることになり、神戸で、その第1回目の代表者会議が開催される予定です。今後、災害メンタルヘルスに関する国際的な学術連携が進むものと期待されます。

災害科学国際研究所 災害対応ロボティクス研究分野教授 田所諭先生 (災害科学国際研究所 災害対応ロボティクス研究分野教授 田所諭先生)

<10月6日>
 *World Robot Summitについて
World Robot Summitは、経産省が2020年に開催するロボットのオリンピックで、2018年10月には東京ビッグサイトでプレ大会が行われました。インフラ災害部門は、防災のためのロボット技術を競う大会で、プラント災害予防チャレンジ、トンネル事故災害対応・復旧チャレンジ、災害対応標準性能評価チャレンジの3つの競技からなっています。国内外から36チームが参加し、熱い戦いを繰り広げました。ドローンが飛行してメーターを読んだり、ロボットがアームを使ってバルブを調節したり、倒れている人を発見したり、ガス漏れを検知するなど、ロボットの有効性を示しました。2020年8月には、福島ロボットテストフィールド(福島県南相馬市)で、本大会が開催されます。

<10月20日>
 *ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジについて
ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジ(2014-2018年度)は、災害の緊急対応・復旧・予防のためのロボット技術を研究開発しました。サイバー救助犬スーツは、救助犬に着せることによって、犬の行動を遠隔からモニタリングすることができる新しい支援装置です。犬がどこで吠えたか、走ったか、歩いたか、匂いを嗅いだか、などの行動の軌跡を地図上で確認することができます。これにより、一人のハンドラーが、多数の犬を遠くまで放って捜索することが可能になります。光を使って、犬の行動を遠隔から誘導する研究も行われました。現在、日本救助犬協会に貸し出して、定期訓練で使用されており、実績を上げる日が近いと考えています。

災害科学国際研究所 災害医療国際協力学分野教授 江川新一先生 (災害科学国際研究所 災害医療国際協力学分野教授 江川新一先生)

<9月1日>
 *ASEANでの災害医療標準化:ARCHプロジェクト合同災害医療対応訓練報告
アジアは災害が多発する地域で、互いに密接な関係をもつ国々が協力しあって災害対応を行うことがとても重要です。東南アジア諸国連合(ASEAN)が共通した災害医療対応を行うARCHプロジェクトのもとに、2018年12月に合同で災害医療対応の訓練を行いました。国際医療支援チームは国ごとに国際認証を受けて、被災国からの要請にもとづいて医療支援を行います。要請を受けて支援を行い、帰国するまでの訓練の様子を報告します。

<9月15日>
 *東日本大震災の災害診療記録
医療機関も被害をうける災害では、地域の医療ニーズは外部からの医療支援チームによって支えられます。阪神淡路大震災や宮城県沖地震と異なり、建物の倒壊が少なくなったこと、地域の高齢化により、外傷以外の医療ニーズ(慢性疾患、感染症、メンタルヘルス、母子保健)が大きな需要となり、熊本や北海道の地震でも同様でした。東日本大震災の災害診療記録からつぎの災害への備えを考えます。

災害科学国際研究所 計算安全工学研究分野 森口周二先生 (災害科学国際研究所 計算安全工学研究分野 森口周二先生)

<8月4日>
 *山形県沖地震について
6月18日22時22分、山形県と新潟県の県境沖で山形県沖地震が発生しました。新潟県村上市で震度6強、山形県鶴岡市で震度6弱、仙台でも震度4が観測されました。2018年に発生した大阪北部地震と同様に、高周波成分が卓越する地震であったため、屋根瓦の被害などは目立ちましたが、全体的な被害レベルは震度のわりには軽微なものでした。揺れの特性によって地震の被害は大きく変化するため、震度と被害レベルが一致しないこともあります。この地震では木造家屋の被害を与えるような揺れの成分が小さかったために被害が小さかったと言えます。しかし、この地震で被害が発生しなかったからといって、将来の震度6強に耐えられる保証はありません。油断することなく、今後の地震に対する備えを強化して頂きたいと思います。

<8月18日>
*西日本豪雨の振り返り
2018年7月3~8日に発生した西日本豪雨では、西日本全体に横たわるように前線が停滞し、前線に沿うように各地で豪雨が発生しました。特に被害が大きかったのは、広島、岡山、愛媛でした。広島と岡山は隣接する県ですが、広島は土砂災害によって、岡山は河川氾濫によって多くの被害が発生しました。このように、被害には地域特性があり、自分の住む地域の災害特性をよく理解しておく必要があります。また、降水量と被害のレベルが単純にリンクしませんでした。過去の降水量と被害の関係を調べた研究によれば、過去にどの程度の豪雨を体験しているかということと被害レベルに相関があることが明らかになっています。東北地方は、西日本に比べて過去に豪雨を体験した数が少ないため、西日本豪雨のような雨が東北地方で発生すればより甚大な被害が出る可能性があります。今一度豪雨災害に対する備えについて考えて頂きたいと思います。

災害科学国際研究所 災害リスク研究部門 橋本雅和先生 (災害科学国際研究所 災害リスク研究部門 橋本雅和先生)

<7月7日>
 *地域によって違う洪水のハザードについて
研究を通して発展途上国の水害と関わってきたため、バングラデシュと日本との「洪水との付き合い方の違い」について紹介します。バングラデシュは洪水氾濫時に肥沃な土地の形成・小魚の流入を期待するなど浸水を許容する道を歩んできました。一方で、日本は川沿いに堤防を築いて、洪水から住宅地を守る方向へ整備を進めてきました。二つの国の川は河床勾配などの性質が異なっており、どちらの付き合い方が良いという話はできません。文化的背景や環境によって地域ごと、家ごとで洪水のハザードは異なります。日頃から川に関心を持ち、自宅の構造を把握するなど、日々の生活、想定される洪水ハザードをイメージしていただきたいと思います。

<7月21日>
*避難所への早期避難(水平避難)の重要性
2018年を振り返りますと、豪雨(梅雨前線)、台風、地震等、様々な災害に見舞われました。洪水は数あるハザードの一つに過ぎず、浸水した家屋の二階で身動きが取れない状況で、地震が起きないとも限りません。西日本豪雨では岡山県総社市で工場の爆発もありました。さまざまな「想定外」が起こる時代だからこそ、豪雨時の早期の水平避難を心がけてほしいと思います。

災害科学国際研究所 社会連携オフィス教授 一般財団法人・世界防災フォーラム代表理事 小野裕一先生 (災害科学国際研究所 社会連携オフィス教授 一般財団法人・世界防災フォーラム代表理事 小野裕一先生)

<6月2日>
 2015年3月に仙台で開催された第3回国連防災世界会議から4年が経ちました。成果文書であった仙台防災枠組の実施にむけての各国での取り組みはどうなっているでしょうか?国連では2年に1度、進捗状況をみることも目的とした防災会議、Global Platform for Disaster Risk Reductionというイベントを開催しています。2019年は5月13-17日にスイスのジュネーブで開催されました。東北大学災害科学国際研究所からも今村所長を含め複数の教員が参加してきました。この防災会議の成果についての最新情報をハイライトいたします。

<6月16日>
*第2回世界防災フォーラム
2019年11月9-12日に第2回世界防災フォーラムが仙台国際センターで開催される予定です。国際機関をはじめとして世界中から文字通りワールドクラスの産官学民メディア等の防災専門家が集い、防災の具体的な解決策を探り共有するこのフォーラムは、東日本大震災からの教訓も紡ぎ出し、後世の人々や世界の人々に伝えて行く場でもあります。第2回フォーラム実施の意気込みや支援のお願いについて、フォーラムを取り仕切る「一般財団法人・世界防災フォーラム」の代表理事の小野よりお伝えいたします。

災害科学国際研究所 災害医療国際協力学分野 助教 佐々木 宏之先生 (災害科学国際研究所 災害医療国際協力学分野 助教 佐々木 宏之)

<5月5日>
*西日本豪雨災害への医療対応と猛暑への対策
 昨年7月に西日本を襲った豪雨災害は、ここ数年懸念されていた猛暑期の災害でした。私は日本災害医学会災害医療コーディネーションサポートチームの一員として7月20日?23日に岡山県倉敷市の倉敷地域災害保健復興連絡会議(通称:KuraDRO)に派遣され、各地から派遣されてくる様々な医療チームの活動調整に従事しました。最高気温37~38℃、降水量0の日々が続き、本部から300m離れたコンビニに向かう道程にさえ身の危険を感じるほどでした。避難所となった倉敷市真備町の小学校体育館には緊急支援として大型クーラーが設置されましたが、クーラー近くの被災者は寒くて風邪を引き、遠くの方は涼しさを感じられないという、不慣れな酷暑対応による新たな課題も発生しました。一時期、被災地に設けられた救護所の受診者の半数近くが支援者やボランティアの熱中症患者だったことも問題となりました。

<5月19日>
*災害時の医療機関の事業継続とさまざまな連携
 平成30年度は災害の多い一年でした。年間の経済被害総額は、東日本大震災に匹敵するとも言われました。6月の大阪北部地震、9月の北海道胆振東部地震の際には、停電や水道の停止、交通網の寸断によって診療機能に制限の出た医療機関もありました。
医療機関が機能するためには、さまざまな構成要素が不可欠です。人的資源だけみても医師、看護師だけでは不十分で、事務、薬剤師、放射線技師、検査技師から給食、清掃、保守点検、警備など様々な職種がそろわないとうまく機能しません。またライフライン、薬剤・食材などの物流(病院へのインプット)、患者の退院・転出調整、広報活動(病院からのアウトプット)なども大きく左右されます。地域のなかで医療機関単独で存在できるわけではなく、地域との強い結びつき、職種を越えた連携体制があってこそはじめて災害に強い医療機関が形成されるのです。
災害拠点病院ではBCP(事業継続計画)が策定され、災害時にも機能停止に陥らないよう対策が進められていますが、事業継続活動を維持・管理していくためには、試行錯誤をくり返しながら様々な訓練や体制整備が必要となります。

災害科学国際研究所 地域・都市再生研究部門 国際防災戦略研究分野准教授 泉貴子先生 (災害科学国際研究所 地域・都市再生研究部門 国際防災戦略研究分野准教授 泉貴子先生)

<4月7日>
*大学の防災への取り組み
2013年に始まったAPRU(環太平洋大学協会)マルチハザードプログラムのサマースクールも今年で7回目を迎えます。これまでに300名近くの学生や教員が仙台に来て、被災地を訪問し、日本の防災や東日本大震災からの復興について学びました。被災地を訪問することによって、参加者はこれまで全く想像できなかった大震災の状況や、その後の復興の様子、また、みんなが協力・連携して、特に市民が中心となって防災活動に取り組んでいることに大変感銘を受けています。
もう一つのマルチハザードプログラムの取り組みに「キャンパスセーフティー」というものがあります。これは、大学がいかに防災対策を強化すべきか、学生・教員・職員の安全をいかに確保するか、など様々な角度から大学での防災を考える機会となっています。アジアは特に災害が多い地域であり、大学でも独自に防災に取り組むことが不可欠といえます。昨年、中国の清華大学で、「キャンパスセーフティー」について意見交換を行う機会がありました。清華大学では、スマートフォンのアプリを使って、キャンパス内で何か緊急事態があった際に情報を共有できるような体制を整えています。そうした情報共有や迅速な対応が可能という意味では、日本より優れているといえます。防災大国と言われている日本ですが、大学はどうでしょうか?防災を外に向かって提唱するだけでなく、まずは家庭や職場で我々に何ができるのかを考えることもとても重要です。

<4月21日>
*防災における科学技術とイノベーションとは
 2015年に仙台で開催された「国連世界防災会議」において採択された「仙台防災枠組」とそれ以前の2005年に神戸で開催された「国連世界防災会議」で採択された「兵庫行動枠組」との違いの一つは、「科学技術の推進への期待」があります。これは技術開発のみならず、情報の共有や概念の幅を広げること、例えば、女性の役割や若い人たちの意見を取り入れた防災なども含まれます。仙台防災枠組では、科学技術やイノベーションの活用がより強調される形となりました。現在、企業、大学、研究機関が共同で様々な新しい防災についての開発が行われています。通常、科学技術やイノベーションと聞くと、ハイテクで高度な技術を必要とするもの、莫大な費用・予算を必要とするものというイメージがあるかもしれません。例えば、ドローンや、GIS(地理情報システム)、早期警報、耐震構造のある建物などもイノベーションの一つと言えるでしょう。
しかしながら、イノベーションは「物」や「製品」だけではありません。アプローチや枠組なども人々の行動や考えを変えることができる大変画期的なものなのです。例えば、前述の「兵庫行動枠組」により、国際的レベルで政府や市民の防災に関する知識が格段に向上しました。また、特定の地域に住んでいる人々が行っている防災活動なども外から見ると、画期的で新しいこともたくさんあります。このような事例を世界中で共有すること、予算がなくてもリスクを軽減できることを少しずつ学んでいくことは、とても重要です。これからは、自国で行われている防災だけでなく、他の国々や地域を参考にしながら、自分たちに最適な方法やアプローチを探し、それを様々な協力や連携をもとに生み出していくという作業が必要になってきます。そのためには、女性や若者、高齢者、外国人、身障者の方々の参加も不可欠です。また、新たな防災の形や連携がうまれていくかもしれませんし、それこそが新たな「イノベーション」と言えるでしょう。

災害科学国際研究所 災害理学研究部門 海底地殻変動研究分野准教授 福島洋先生 (災害科学国際研究所 災害理学研究部門 海底地殻変動研究分野准教授 福島洋先生)

<3月3日>
*珍しい活断層型地震と2011年の巨大地震の関係
 地震は、地球を覆っているプレート同士の押し合いへし合いの結果起こります。地震の大部分は、プレートの境界か、プレート境界付近のプレート内部で起こります。プレート内部地震の実体は、周囲より弱い割れ目である「活断層」の急激なずれです。活断層では、一定の時間をおいて何度も繰り返して地震が起こりますが、1つの活断層では、通常は1000年から数万年と非常に長い間隔で大地震が起こります。ところが最近、衛星データの解析により、茨城県北部でわずか5年9ヶ月という極めて短い間隔で2つの地震が発生していたことがわかりました。また、そのような特異なことが起こったのは、どうやら、2011年東北地方太平洋沖地震の影響のようです。

<3月17日>
*南海トラフ巨大地震の“事前”対応について
西南日本の静岡から九州までの太平洋側の広い地域で懸念されている「南海トラフ巨大地震」。過去には、紀伊半島より東側、紀伊半島より西側、その両方のプレート境界面が破壊される地震が起こっていたことがわかっています。また、片側だけ破壊される地震が起こった場合、少しの時間差(数十時間以内〜数年以内)を置いて、もう片方を破壊する地震が起こる性質があるらしいこともわかっています。政府の中央防災会議の有識者会合は、最近、片側だけ破壊される地震があった場合に反対側で懸念される地震に対応する方針などについて、報告書をまとめました。今回は、この報告書の内容について紹介します。

災害復興学実践分野 防災教育・人材養成ユニット助教 定池祐季先生 (災害復興学実践分野 防災教育・人材養成ユニット助教 定池祐季先生)

<2月3日>
*北海道胆振東部地震被災地となった厚真町について
 昨年9月6日に発生した胆振東部地震。2013年から厚真町の防災教育に関わっていた縁で、翌日に北海道に渡り、9月8日から厚真町の支援活動に携わっています。
 厚真町は新千歳空港から車で30~40分の場所にあり、移住促進の取り組みが功を奏し、社会増を続けてきた地域です。Twitterのフォロアーが20万人を超えるリスの来るカフェ、その近くにある美味しいパン屋さんなど、魅力あるお店、魅力的な人が集まっている町で、あのような災害が起こってしまいました。現在、仮設住宅に入居した方達は、談話室でお茶会をしたり、年末に一緒に紅白歌合戦を見たり、助け合って除雪をするためのルールを決めたりと、自治が始まっています。
 12月26日から、厚真町では「ATSUMA LOVERS」という取り組みが始まりました。InstagramなどのSNSで「#ATSUMA LOVERS」とハッシュタグをつけて投稿しようというもので、ロゴマークもあります。被害の大小や住んでいる地域にかかわらず、「好き」という気持ちは多くの人と共有しやすいものです。私自身、「ATSUMA LOVERS」の一人として、厚真に通い続けようと思っています。

<2月17日>
*厚真町での防災教育・心のサポート活動
 2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震。最近は落ち着いてきたものの、当初は余震が多く、子供も大人も余震への恐怖心がありました。被災地では、余震や二次災害などへの備えが必要な一方で、「地震」という言葉を聞くすら辛いという人もおり、未災地と同様の防災教育や防災に関する呼びかけをする訳にはいきません。
 そこで、学校や避難所に心のケアと余震への備えをセットにした情報提供を行うと同時に、厚真町内の中学校2校では、これまで2回の心のサポート授業を行いました。その際、生徒ひとり一人に「地震という言葉を見聞きする」というようなことについて、10段階でしんどさをチェックしてもらった上で、「『地震』という言葉は人を傷つけるものではない→『地震』という言葉を怖がらなくても大丈夫」というようなことを伝え、「地震」という言葉が平気になったら、次のステップとして余震への備えを考えてみよう、というように、苦痛度が小さく安全な刺激から、安全と安心を獲得するために取り組むことを勧めたり、ストレスを自覚したときのリラクゼーションの方法などを伝えました。その際には、私自身の北海道南西沖地震の体験から、日記を書いたり、ピアノを弾いたりすることがストレス解消になったことなども伝えました。
また、2018年9月20日に開局したあつま災害FMでは、「防災一口メモ」というコーナーを設けていただき、余震への備えについての呼びかけを続けています。

文学研究科心理学講座教授 阿部恒之先生 (東北大学大学院文学研究科 心理学講座教授 阿部恒之先生)

<1月6日>
*日本心理学会でのシンポジウムについて
昨年2018年9月25-27日、仙台国際センターで日本心理学会第82回学術大会が開催されました。日本心理学会の学術大会は1927年を第1回とし、仙台での開催は今回で5回目になります。日本全国、そして海外から、約3,000名のご参加をいただきました。
この大会で、「被災地の研究者~東日本大震災発生後の取り組み」というシンポジウムを主催させていただきました、東北大学災害科学国際研究所・初代所長の平川新先生、現所長の今村文彦先生、宮城県臨床心理士会会長で東北学院大学の堀毛裕子先生をお招きして、東日本大震災の発生前のご活動から、発災直後、そして今日に至る活動を、時間経過を追って、じっくり語っていただきました。そして杉浦元亮先生(東北大)・岡本英生先生(奈良女子大)・松井豊先生(筑波大)からコメントしていただきました。
このとき用いた資料を動画にしましたので、以下よりご覧いただければ幸いです。
https://www2.sal.tohoku.ac.jp/psychology/img/181217movie.mp4

<1月20日>
*災害心理学で博士号
本日は、2011年のお正月にも登場してくれたジュターチップさん(バンコク出身)もご一緒してもらいました。2011年のお正月には、タイと日本の防災意識の違いに関する彼女の修士論文の研究、そして、これからタイのプーケットの津波調査に出かけるというお話をしました。
この調査から帰国してすぐに、東日本大震災が発災しました。以来、ジュターチップさんと私は、災害心理のデータ収集を行ってきました。三陸海岸の現地調査、市民講座でのデータ収集、台湾での調査、数回のインターネット調査等、たくさんのデータを収集しましたが、ようやくまとまり、2018年3月、ジュターチップさんが博士論文として提出しました。そして、6月に博士の学位を取得しました。7年間の努力が実りました。今は東北大学の職員として活躍しながら、さらに研究を深めようとしています。

災害科学国際研究所 災害文化研究分野准教授 蝦名裕一先生 (災害科学国際研究所 災害文化研究分野准教授 蝦名裕一先生)

<12月2日>
*福島県双葉町の歴史資料・被災資料調査
福島県双葉町は、東日本大震災にともなう福島第一原発事故の発生によって、今日もほぼ全域が帰還困難区域になっています。個人的な事になりますが、東北大学に勤める以前、双葉中学校で半年ほど社会科の講師をしておりました。そうしたご縁から、双葉町が全村避難した埼玉県の旧騎西高校における被災資料の保存活動や、2014年の双葉町教育委員会による双葉中学校の現状調査に参加しました。2011年3月11日、双葉中学校では卒業式が行われましたが、その日の午後に地震・津波が発生したのです。中学校は避難所となり、近隣の多くの住民が避難して来たのですが、翌12日早朝、原発事故による避難指示が出されたため町の人々は着の身着のままで一斉に避難することになったのです。3年後、私たちが調査に入った時の双葉中学校には、その日卒業式を迎えた卒業生の黒板への寄せ書きや在校生達の鞄、避難所となった時に準備された食料や安否確認の掲示物など、災害発生の状況がタイムカプセルのようにそのまま残されていました。
今年、いわき市の双葉町事務所で歴史資料の写真撮影に参加した際、当時教えていた生徒と再会することができました。現在、彼は東京電力に就職し、まさに自らのふるさとのために、原発の廃炉作業に携わっているとの事でした。私も彼に負けないよう、歴史研究者として、ご縁のある双葉町の復興に協力していきたいと考えています。

<12月16日>
*シンポジウム「歴史が導く災害科学の新展開」について
昨年、東北大学は人間文化研究機構、神戸大学と連携・協力協定を締結し、「歴史文化資料保全の大学・共同利用機関ネットワーク事業」を推進することになりました。これは、古文書をはじめとする様々な歴史資料・文化財を災害などの危機から守るため、全国の史料ネットと連携して、史料のデジタル化や保存・修復の相互支援をするための体制作りを進める事業です。そのひとつとして、今年「歴史が導く災害科学の新展開」というシンポジウムを開催しました。東日本大震災以降、歴史上の災害が注目されるようになりましたが、このシンポジウムでは、歴史資料の情報をベースに、歴史研究者だけではなく、考古学・民俗学・土木工学・地質学などの様々な分野の研究者が災害の文理融合研究に取り組んでいる成果を報告する内容となりました(第1回2月10日、第2回6月10日開催)。ここでは多様な分野からの研究者の報告とともに、全く異なる分野の研究者同士がパネルディスカッションで議論することにより、あらためて文理融合研究の重要性、さらにそのベースになる歴史資料の重要性が明らかにされていきました。

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