<2026年3月8日>東日本大震災から15年

3月11日で、東日本大震災から15年という大きな節目を迎えます。ハード面(防潮堤や道路など)の復興整備が進む一方で、時間の経過とともにソフト面や社会構造の変化に起因する新たな課題が浮き彫りになっています。
1.震災の記憶の「風化」と「未経験世代」の増加
15年という時間は、記憶が薄れてしまう十分な長さです。現在の中学生以下は、震災後に生まれたか記憶がない世代です。被災地以外の地域では、防災備蓄の更新が滞ったり、避難訓練の参加率が下がったりするなど、危機感の薄れが懸念されています。
2.「高齢化・過疎化」による地域防災力の低下
被災地である東北沿岸部をはじめ、日本全体で進行している課題です。避難支援の限界として、住民の高齢化が進み、「誰が誰を助けるか」という共助(地域での助け合い)が物理的に難しくなっています。また、自力で避難できない高齢者や障害者ごとの避難計画「個別避難計画」の策定が急がれていますが、作成の担い手不足などにより進捗に地域差があります。
3.「ハード整備」が生む新たなリスク(安心感のパラドックス)
巨大な防潮堤やかさ上げ地が完成したことで、逆にリスクが生じているという指摘もあります。「立派な堤防があるから大丈夫」という心理が働き、津波警報が出ても避難行動が遅れる恐れがあります。ハードはあくまで「時間稼ぎ」であり、避難が最優先であるという意識の再徹底が必要です。防潮堤により海が見えなくなり、視覚的な異変(引き潮や白波など)に気づきにくくなっている状況もあります。
4.南海トラフ・首都直下地震への応用と「事前復興」
東日本大震災の教訓を、次の巨大災害にどう活かすかというフェーズに入っています。東日本大震災では広域避難が課題となりました。首都直下や南海トラフでは、より桁違いの避難者数が予想されるため、具体的な受け入れ体制の整備が急務です。災害が起きてから考えるのではなく、被害を最小限に抑え、どう復興するかを事前に計画しておく「事前復興」のまちづくりが求められています。

<2026年3月1日>東日本大震災15年復興・創生シンポジウム~他人事から自分事化へ

https://irides.tohoku.ac.jp/media/files/_u/topic/file/20260213_report_rev.pdf
「東日本大震災15年 復興・創生シンポジウム~他人事から自分事へ~」(東北大学、読売新聞社などの共催)を2月13日、東京都内で開催しました。
東北大学湯上理事・副学長の挨拶に続き,読売新聞グループ本社山口寿一社長から「被災地の復旧・復興、教訓の共有、防災への取り組みに役に立ちたいと、取材報道やシンポジウムなどを積み重ねてきた。皆さんにも議論を自分事と受け止めてほしい」とご挨拶いただきました。第1部として、復興構想会議副議長を務められた
東京大学先端科学技術研究センターフェローの御厨貴先生と国土技術研究センターの徳山日出男・理事長から基調講演をいただきました。震災時に国土交通省東北地方整備局長だった徳山氏は、いち早い道路啓開の「くしの歯作戦」を指揮した経験を紹介し、その上でリスクマネージメントこそが人の生死を決める要因になると日頃の備えの重要性を訴えました。第2部では、復興庁の古橋審議官から、震災から現在までの状況を、私から震災の複合性,復興7原則の紹介と伝承の重要性,災害科学コースの設置など東北大学の復興への取組を紹介、災害研の栗山所長から自分事化(行動変容)の難しさと大切さなどの報告がありました。第3部はパネルディスカッションで、4名の大学生が被災地支援や防災活動の報告、自分事化に向けて一人ひとりができることについてのメッセージを発信してくれました。

<2026年2月22日>動都と防災について

「動都(どうと)」という言葉は、主に建築家の坂茂(ばんしげる)氏などが提唱している「移動し続ける首都」という新しい都市計画・防災の概念で、首都機能を1カ所に固定せず、数年ごとに地方都市へ移動させ続けるというアイデアで、オリンピックのように、4〜5年ごとに手を挙げた地方都市へ国会や省庁などの「首都機能」を移転させます。恒久的な新しい都市を作る「遷都」とは異なり、「仮設(テンポラリー)」の施設を使って移動し続ける点が特徴です。
坂茂さんは、紙管などを使った「避難所用間仕切り」など、迅速に設置できる仮設建築(災害支援建築)で世界的にも有名で、災害科学国際研究所の特任教授(客員)にもなっていただいています。「動都」の構想が提案される最大の理由の一つが「防災(特に首都直下地震などのリスク分散)」で、「首都を固定することで生じる『全滅リスク』を、首都を動かし続けることで回避し、日本中に防災拠点を増やしていく」という戦略です。
①東京一極集中のリスク回避
現在、政治・経済・情報のすべてが東京に集中しており、首都直下地震が発生した場合、国の指揮命令系統が麻痺し、日本全体が機能不全に陥る「共倒れ」のリスクがあります。首都機能を定期的に東京から動かすことで、物理的にリスクを分散させます。
②「バックアップ都市」の増加(強靭化)
首都機能を受け入れる都市(ホストシティ)は、国会機能やセキュリティ、通信インフラを整備する必要があります。「動都」が巡回することで、高度なインフラと防災機能を持つ都市が日本全国に増えていきます。結果として、どこかの都市が被災しても、他の都市がすぐに代替機能(バックアップ)を果たせるようになり、国全体の「災害への強さ(レジリエンス)」が高まります。
③復興・対応の迅速化
「動都」では、重厚長大なコンクリート庁舎を建てるのではなく、リサイクル可能で移動・建設が容易な建築技術を用います。この「素早く作れて、移動できる技術」自体が、災害時の仮設住宅や拠点設営の予行演習となり、防災技術の向上につながります。

<2026年2月15日>次世代防災テクノロジー体験DAYについて

2月1日(日)、アクアイグニス仙台主催のイベント「次世代防災テクノロジー体験DAY」に参加してきました。トークセッションでは、「次世代の防災とテクノロジーが守る、私たちの生活」を大きなテーマに、4名の方から最新の知見を紹介いただき、テクノロジーの可能性、そして、現場や生活者の視点を交えながら、もしもの時に備えるだけでなく、「普段の暮らしの質を高めながら、防災につなげていく」(フェーズフリー)をテーマに話し合いが行われました。 ・PicoCELAの中西広祐さん:災害備蓄用Wi-Fi「Sona-L™」(通常よりも広域で繋がりやすく、災害時に通信が途絶えても、わずか15分でWi-Fi環境を構築できる最新技術)
・スズキ株式会社の前田さん:避難誘導モビリティ「MITRA」(災害を検知すると自動で「避難誘導モード(光と音声)」に切り替わる次世代の誘導技術で、段差や急な斜面でも使用可能な走破性と信頼性の優れたモビリティ)
・中央情報大学校の佐藤琉輝さん:自ら開発した避難所受付のデジタル化体験「PicoRESQ(ピコレスキュー)」
・クラボウテクノシステムの山本実さん:紡績クラボウでのノウハウを活かした、安全な管理システムや蓄電池の開発
それらのテクノロジーの展示や体験をはじめ、家族で楽しめるクイズスタンプラリーなどもあり、お子様連れで楽しみながら防災意識を高められたと思います。
https://sendai-tushin.jp/2026/01/29/post-482320/

<2026年2月8日>宮城県防災教育副読本「未来へのきずな」

「未来へのきずな」は、宮城県教育委員会が作成した「宮城県防災教育副読本」のことです。東日本大震災の教訓を次世代へ語り継ぎ、子供たちが自らの命を守れるようにするために制作されました。特に、震災を経験していない世代や記憶が薄い世代に対し、「自らの命を守る力(自助)」と「共に助け合う心(共助)」を育むこと。また、震災の記憶を風化させず、未来へつなぐことを目指しており、子供の成長に合わせて内容が工夫されています。
私は初版から監修を担当させていただいています。津波工学や災害科学の知見に基づき、①科学的なメカニズムの理解: 地震や津波がなぜ起こるのか、どのような特徴があるのかを、子供の発達段階に合わせて科学的に正しく解説しています。②実践的な避難行動: 「もし学校にいたら」「登下校中だったら」など、具体的なシチュエーションでの身の守り方を重視しています。③教訓の伝承: 単なる防災マニュアルにとどまらず、被災体験や復興の歩みを取り上げ、「なぜ逃げなければならないのか」という根本的な意識(防災意識の内面化)を育てる構成になっています。多くの学校現場で活用されており、宮城県教育委員会や各学校から具体的な実践事例が報告されています。単に「読む」だけでなく、教科の授業(社会科・道徳など)や、避難訓練との組み合わせなど、多角的に利用されているのが特徴で、ご家庭での防災教育や、地域の防災活動の資料としても活用できます。この副読本は、宮城県の公式ウェブサイトでPDFデータとして一般公開されており、誰でも閲覧・ダウンロードが可能です。
https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/hotai/fukudokuhon.html

<2026年2月1日>バルーン型津波避難標識の実証研究について

東北大学大学院 津波工学研究室博士課程 成田峻之輔さんの「津波バルーンプロジェクト」を紹介させて頂きます。「視覚的な避難誘導」に焦点を当てた実用化研究で、コンセプトは「現代版の狼煙(のろし)」です。東日本大震災の教訓に加え、自身が観光で鎌倉を訪れた際に「土地勘のない観光地で津波が来たら、どこに逃げればいいか全くわからない」と恐怖を感じたことをきっかけにこの研究を始めたそうです。デジタル技術(スマホの地図など)に頼らず、顔を上げれば誰でも直感的に「あそこが安全だ」とわかるアナログな強さを重視しています。研究・実証実験の具体的な内容としては
A. 視認性の検証/「どれくらい離れた距離から見えるか」「文字は読めるか」を検証しました。バルーン自体は500m〜1km離れても気づくことができるが、垂れ幕の文字を読むにはかなり近づく必要があることなどが判明しました。 これを受けて、細かい文字情報よりも、「赤いバルーン=避難場所」という共通認識(ピクトグラム化)を作ることの重要性を提唱しています。
B. VR(仮想現実)を用いた避難シミュレーション/VR空間に鎌倉市などの街並みを再現し、被験者にHMD(ヘッドマウントディスプレイ)をつけて避難してもらっています。バルーンがある場合とない場合で、「避難開始までの迷う時間」や「避難完了までの時間」がどう変わるかをデータ化しました。バルーンがあることで、特に土地勘のない人の避難判断が早まる効果が実証されています。
C. 自動掲揚システムの開発/津波警報が出た瞬間に人が屋上に行ってバルーンを揚げるのは危険です。そのため、無人で自動的にガスが充填され、3分以内に浮上する装置(通称:自動掲揚機)の開発を進めています。最近では、静岡市清水区の商業施設などでも実証実験を行い、実用化に向けた課題(風への耐久性やコストダウン)を洗い出しています。
2月16日午後2時から夜間のライトアップも計画,中野5丁目津波避難タワーでの実証実験を行う予定です。クラウドファンディングで資金を集めたり、企業と連携したりと、研究室の枠を超えて「社会実装」に非常に積極的です。

<2026年1月25日>なぜM9級カムチャツカ巨大地震は73年で繰り返し発生したのか?

https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2025/12/press20251209-02-Kamchatka.html
筑波大学、東北大学(遠田教授)らのグループ研究成果です。 1952年にマグニチュード(M)9級の超巨大地震が起きたカムチャツカ半島沖で今年7月30日、再びM9級の地震が発生しました。通常400年以上と言われるサイクルが僅か73年で発生したことになります。この地震学の常識を覆す発生間隔の短さの謎を解明するため、その破壊過程を精密に解析し、巨大地震が古典的な地震サイクルモデルでは説明が困難な挙動をしていることを示しました。73年間で蓄積されたすべり遅れ(約6m)を大きく超える9〜12mの大すべりが広い範囲で発生していたこと、さらに大すべり域の内部で断層すべりが2度加速していたことが明らかになりました。この2度の加速が生じた領域では、地震後にプレート収束方向とは逆向きの低角正断層型の余震が、プレート境界付近に集中して発生していることもわかりました。これは、本震時にオーバーシュート(断層すべりの行き過ぎ)が発生し、断層をずらす力が反転する現象が発生したことを示唆します。これらから研究チームは、1952年の地震で解消されずに残った古いひずみに、1952年以降のひずみが加わって蓄積され、それが2025年の地震でほぼ解放されたと結論づけました。
また、加えて本研究では、1952年と2025年の津波記録の比較解析も行いました。1952年のアナログ記録をデジタル化した津波波形と2025年の最新データを比較すると、発生後約1時間までの初期津波形が類似していることがわかりました。これは両地震の主要な津波生成域がほぼ同じであったことを意味します。本研究は、破壊物理の違いなどにより、巨大地震後に残留するひずみの量には大きな違いが生じ、結果として巨大地震の周期が乱れ、再来間隔が規則的でなくなることを明らかにしました。現実の巨大地震は、古典的な地震サイクルモデルでは説明が難しい複雑な挙動を示すということであり、南海トラフを含む世界の沈み込み帯で実施されている長期地震予測モデルに重大な示唆を与えるものです。

<2026年1月18日>今年の防災関係の動き

1.能登半島地震から2年、復興のフェーズ移行
1月1日で能登半島地震から丸2年が経過しました。今年は復興の段階が「瓦礫撤去・仮設住宅」から「本格的な再建・まちづくり」へと移ります。
課題: 公費解体はおおむね進んでいますが、人口流出(震災前から2割減など)や、なりわい(産業)の再生が深刻な課題です。
二重被災への対応: 2024年の豪雨災害との「二重被災」を受けた地域では、より長期的な支援が必要とされています。
2.【6月頃〜】新しい防災気象情報「危険警報」の運用開始
これが今年、私たちの生活に最も直接関わる変化です。梅雨や台風シーズン(出水期)から、避難情報の名前や仕組みが変わります。これまでの「土砂災害警戒情報」や「氾濫危険情報」など、名前がバラバラでわかりにくかった情報が、「危険警報(レベル4)」という名称に統一される予定です。「〇〇地区に危険警報」と出たら、「全員避難」の合図になります。これまで以上にシンプルで危機感が伝わりやすい名称になります。
また、これまで「大雨」などに限られていた「特別警報」(警戒レベル5相当)の対象が拡大され、「洪水」や「高潮」も加わる見通しです。
3.【年度内】「防災庁」の創設準備
国の行政組織として、「防災庁」の設置に向けた動きが本格化します。
司令塔の統合: これまで内閣府や国交省などに分散していた防災対応が一本化され、災害時の政府対応がよりスピーディーになることが期待されています。
事前防災の強化: 起きてからの対応だけでなく、「起きる前の備え(避難所の環境改善、インフラ強化)」に予算や権限が割かれるようになります。
4.トレンド:住宅・個人の「エネルギー自立」
防災テック(DX)の分野では、停電対策がさらに「日常化」します。新築住宅やリフォームにおいて、太陽光発電とセットで大型蓄電池(家丸ごとの電気をバックアップできるもの)や、電気自動車(EV)を電源として使うV2Hシステムの導入が、標準的な「防災装備」としてさらに普及する年になると思います。

<2026年1月11日>東日本大震災15年シンポジウム~他人事から自分事化へ

今年3月11日には東日本大震災から15年の節目を迎えます。
東日本大震災から10年の節目はコロナ禍により十分な検証の機会を持つことができませんでしたが、震災の教訓を風化させず、将来の災害への備えを強化するため、東北大学と読売新聞社の共催により「東日本大震災15年 復興・創生シンポジウム」を下記の通り開催する運びとなりました。本シンポジウムでは「他人事から自分事へ - 東日本大震災から15年、迫りくる巨大地震に私ができること」をテーマに、震災の経験と教訓を振り返り、復興・創生の現状と防災への課題を共有し、特に若い世代を含めた「自分事化」を促進する議論を行います。
・日時:2026年2月13日(金)13:00〜
・会場:イイノホール(東京都千代田区内幸町2-1-1)
・主催:東北大学、読売新聞社、国土技術研究センター、一般財団法人3.11伝承ロード推進機構
1. 基調講演「東日本大震災が残した最大の教訓とは? 出来たこと・課題に残ったこと」
御厨貴・東京大学先端科学技術研究センターフェロー
徳山日出男・一般社団法人国土技術研究センター理事長
2. 報告「復興・創生の現状と次への防災・減災の課題」
古橋季良・復興庁審議官
今村文彦・東北大学副学長
栗山進一・東北大学災害科学国際研究所所長
3.パネルディスカッション 一人ひとりの「自分事化」でつくる減災社会
ファシリテーター:福島洋(東北大准教授)
パネリスト:東北大・福島大・高知大・首都圏の大学からボランティア団体学生代表、ゲルスタ・ユリア(東北大准教授)
対面のみでありますが、是非御参加下さい。
参加の登録は以下になります。
https://yab-lp.yomiuri.co.jp/bousai2026/

<2026年1月4日>2026年を迎えて

2026年は、東日本大震災や熊本地震など過去の災害の「節目」となる重要な年です。また、災害対応の「司令塔」と位置づけられている防災庁が創設される予定です。
・東日本大震災から15年(3月11日):15年が経過し、震災を知らない世代が増える中で、伝承活動や震災遺構の保存やデジタルアーカイブ化(防災DX)の成果が問われます。また、ハード面の復興期間が終了に向かう中、被災者の心のケアやコミュニティ維持などソフト面の課題が挙がります。
・熊本地震から10年(4月14日・16日):熊本城の復旧進捗の確認や、創造的復興(Build Back Better)の検証が行われます。
・能登半島地震(2024年)から2年が経過:「半島防災の難しさ(孤立集落問題)」や「上下水道の耐震化の遅れ」に対し、具体的な対策(空路・海路アクセスの整備、自律分散型インフラの導入など)がどこまで進んでいるかが問われます。
・気象庁は2026年を目処に、線状降水帯の発生予測精度を現在の「府県単位」から、より狭い範囲で、かつ半日程度前から予測できる体制を目指しています。
・マイナンバーカードと避難所の連携も検討されていくと思います。避難所での受付や安否確認にマイナンバーカードを活用するシステムの全国普及が目標の一つとなっています。
・東北大学は、FUKUSHIMAサイエンスパーク浜通り拠点を今年後半に福島県浪江町に設置する予定です。
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2025/07/news20250710-fukushima.html